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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百二十四話 キュンメル事件(その2)
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いる人間は腐るほど居ますよ。一々怯えてどうします?」
キュンメル男爵の目に憎悪が浮かんだ。そういうことか、この男は司令長官を殺したいのではない、いや殺したいのかもしれないが、司令長官を怯えさせ自分が優越感を味わってから殺したいのだ。

「司令長官、最後に望みは有りませんか?」
“最後に”、その言葉に部屋が凍りついた。だが俺から見れば予想通りだ、男爵は司令長官に懇願させたい、命乞いさせたいに違いない。

「有りませんね、有っても男爵には叶えられない」
「僕には叶えられない? それは何です?」

幾分むっとしたような表情を男爵はした。望みは無い、有ってもお前には叶えられない、そう言われた事が面白くないのだろう。
「私の望みは三十年後の世界を見ること、それだけです。まさかこのまま三十年を過ごすことなど出来ないでしょうし、三十年後の世界を此処に持ってくる事も出来ない。男爵には叶えられない、違いますか?」

そう言うと司令長官はココアを一口飲んだ。嘲りではなかった、男爵の事などまるで関心が無い、そんな口調だった。
「……頼んでみてはどうです。まだ死にたくないと」
強者の余裕だろうか、笑みを浮かべ唆すような男爵の口調だった。

「元帥」
ヴァレリーが司令長官に声をかけた。命乞いをしろというのだろう。
「出来ませんね、そんな事は。キュンメル男爵家の人間に頭を下げて命乞いなど出来ません。そうでしょう、フロイライン・マリーンドルフ」

司令長官の言葉にフロイライン・マリーンドルフの顔が強張った。そしてキュンメル男爵は、いやキュンメル男爵だけではない、皆が、ミュッケンベルガー元帥父娘も訝しげな表情をフロイラインに向けた。
「ヒルダ姉さん、司令長官は一体何を言っているのです?」

「ハインリッヒ……。御願い、御願いだから止めて」
フロイラインが懇願している。両手を前にあわせ、泣きそうになりながら懇願している。

「姉さん、教えてください。司令長官は一体何を言っているのです?」
「ハインリッヒ、御願いだから……」
「教えてください! 一体司令長官は何を言っているのです!」

興奮したのだろう、男爵が咳き込み背を丸める。チャンスだ、動こうとしたとき、司令長官が手で止めた。何故止める? そう思って司令長官を見た。司令長官は冷たい笑みを浮かべている。戦慄が走った、もしかすると今を楽しんでいるのか……。

「教えてあげますよ、男爵。キュンメル男爵家とヴァレンシュタイン家の因縁をね」
「……」
「司令長官、御願いです、止めてください」
「フロイライン・マリーンドルフ、男爵には知る権利が、いや義務がある。そうでしょう?」
「……どういうことです、司令長官」

男爵は訝しげな表情を浮かべている。先程までの余裕はもう無い。
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