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星がこぼれる音を聞いたから
10. 酒と星
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 飛鷹もいなくなり厨房に一人残された俺は、隼鷹が来るまでの間にツマミでも作っておいてやろうかと思い、何を作るか考えていた。

『そうだなぁ……なんかリクエストあるか?』
『豚汁!!』

 昼間のそんな会話を思い出す。豚汁はまだ充分残ってるし、卵焼きでも作っておこうか。俺の師匠……瑞鳳の直伝にして、大根おろしを乗せた俺オリジナル。

――あんたが大根をおろす音が聞きたいから

 そういやそんなようなこと言ってたなぁ隼鷹は。大根おろしの音が心地いいだなんて、なんつー口説き文句だ?

 瑞鳳から受け継いだ通りの卵焼きをこしらえ、大根も今のうちにおろしておく。隼鷹は『音が心地いい』と言ってはいたが、別に絶対に聞かせなきゃいかんというわけでもないだろうし……なんて思っていたら。

「おーいていとくー!」
「おっ?」
「ヒャッハァァアアアアアア!!!」

 なんだか久しぶりに聞いた気がする隼鷹の世紀末な叫び声だ。隼鷹は食堂から俺がいる厨房を覗き込んでいた。その手には、『獺祭』というラベルが貼られた小瓶が握られていた。その瓶とガラスのおちょこ2つを高々と掲げ、俺に誇らしげに見せてくれる。

「一緒にのもー!」
「……飛鷹が言ってたぞ? それ、隼鷹の秘蔵なんだろ?」
「そうさー」
「そんな大事な酒をいいのか?」
「大事な酒だから今日飲むんだよヒャッハァアアアアアア!!!」

 いつもより、なんだかテンションが高い気がする隼鷹を食堂で待たせ、俺は卵焼きと大根おろし、そして温めなおした豚汁をお椀に汲んで運んでやった。

 隼鷹が選んだ席は、窓際の席。今日は昼間から天気がよく、夜になっても窓からきれいな月がよく見えた。俺はそんな隼鷹のさし向かいに座ることにする。

「お?」
「お、すまん……」
「いや別にいいけど」

 いつもの癖で、あやうく隣りに座りそうになったのは秘密だ。

「おっ。いつぞやと同じ献立だねー」
「まぁな。言っても晩飯の残りだし」

 任せろ。その酒が合うかどうかは分からんが、今日は特別な夜にしてやる。

 隼鷹が獺祭の蓋を空け、澄んだガラスのおちょこに注いだ。いつぞやここで2人で飲んだ日本酒と変わらない色なんだろうけど……少しだけ輝いて見えた。

「んじゃ提督」
「ん」
「「……乾杯」」

 2人で軽くおちょこを重ね、チンと鳴らす。その時おちょこから鳴り響いた音は、隼鷹から聞こえる音と同じぐらいに美しい音だった。2人で同じタイミングでおちょこを煽り、そして同じタイミングでそのおちょこをテーブルにタンと置いた。

「くぁぁ……美味しいねー」
「うん。うまいな」
「さすがあたしのとっておき」
「さすがですなぁ隼鷹さん」
「まぁねー。もっと褒めるがいい〜ダハハハハ
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