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星がこぼれる音を聞いたから
1. 玉子焼きと豚汁
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うんだって。……ま、今から分かることじゃん」

 確かにそうだと思いつつ、隼鷹とコップを重ねた。

「……師匠の瑞鳳に」
「……戦友の瑞鳳に」
「「……乾杯」」

 コップの中の日本酒に少し口をつけたあと、即座に玉子焼きに箸を伸ばした。晩酌は本来の目的じゃない。本来の目的は、残り物の玉子焼きだ。瑞鳳直伝の、冷めても美味しい絶品玉子焼きを口に運び、丁寧に味わう。……うむ。上出来だ。だが……

「……甘いな」
「だねー。ま、あんたの師匠の味だからね」
「……大根おろしでも乗せてみるか」
「いいかもしんない」

 心の中で瑞鳳師匠に詫びを入れつつ、俺は一度食堂に戻って大根と大根おろし、そして受け皿を持ってきた。食堂に鳴り響く、しゃりしゃりという大根を下ろす音。

 悠長にのんびりと大根をおろす俺の前で、隼鷹は頬杖をついて心地よさそうに微笑んでいた。酒を飲んでるせいか、ほっぺたが少し赤い。おかげでいつもは感じない艶ってのようなものを、隼鷹はまとっていた。

「隼鷹」
「ん?」
「なんで静かにしてるんだ?」
「あんたが大根をおろす音が聞きたいから。心地いいんだー」

 やがて出来上がった大根おろし。それを一切れの玉子焼きの上に少量乗せ、少しだけ醤油をかけた。

「お先」
「んー」

 出来上がった大根おろしを乗せた玉子焼きを、俺よりも隼鷹が先に口に運ぶ。

「どうだ?」
「んー……」

 隼鷹は、目を閉じて静かに味わっていた。何かを確かめるように、思い出の中の瑞鳳の玉子焼きと比べるように、神経を研ぎ澄ませて味わい、そして飲み込んでいた。

「……美味しいよ。瑞鳳ぽさもあるけど、それ以上に提督の味だね」
「そか?」
「うん。あたしゃ好きだよ」

 笑顔でそう語る隼鷹の背後の窓には、綺麗な満月が顔を出していた。

「……さ、食べよっか。今晩はとことん付き合うよー」
「つっても酒飲むだけだろうお前……」

 そう言いながら俺達は、日本酒と玉子焼きに舌鼓を打った。とはいえ流石に60個弱の玉子焼きをたった二人で食べきるのは無理があったようで、いくつかの玉子焼きは残してしまった。

 残った卵焼きは、哨戒任務中の川内と那珂の夜食として、おにぎりと豚汁の残りと一緒に置いておいた。翌朝、俺の大根おろし乗せ玉子焼きは、二人の『美味しかった! ありがと!! でも昨日は残してごめんね』の置き手紙と引き換えに綺麗さっぱりなくなっていた。

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