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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百十一話 決戦、ガイエスブルク(その1)
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だがそれでも責任を感じてしまうのが人間というものだ。司令長官はミッターマイヤー提督と共に出撃する事で彼に対する信頼を表したのだろう。信頼できない相手と共に出撃する事がどれ程危険かはヒルデスハイム伯を思えば分かる。

司令長官の挑発行為はかなり大胆なものだった。敵の前で行進をするかと思えば長時間にわたって同じ場所に留まり続けた。さらには陣形を変え、艦隊訓練の真似事まで行なった。敵にしてみれば腹立たしい事だっただろうが、挑発に乗るような事は無かった。

もっとも腹立たしい思いをしたのは司令長官も同様だろう。司令長官が当初考えたであろう敵を挑発し要塞より引き摺りだして戦うという方針は失敗したようだ。三月末までに辺境星域の平定も含めた内乱の鎮圧は厳しい状況になりつつある。

今日此処に集合を命じたと言う事は新たな方針が示されると言う事だろう。ケンプ提督、レンネンカンプ提督の言う通りおそらくは力攻めになる。司令長官にとっては気の重い命令になるだろう。

司令長官が会議室に来た。全員が起立して敬礼で迎えようとすると司令長官は手でそれを抑えた。
「無用です、席についてください」

司令長官の言葉に困惑を感じながらも席につく。皆も同じなのだろう。問いかけるような視線が会議室に満ちた。司令長官は苛立っているのだろうか? しかし表情に苛立っている感じは無い。

「既に分かっているかと思いますが、私は要塞近くでの戦いは不利だと思い敵を引き摺り出して戦おうと考えていました。しかし敵を挑発し引き摺り出して戦う事はどうやら不可能なようです」
司令長官の言葉に皆が頷いた。

「敵の狙いは明らかです。こちらを要塞付近に引き寄せ、背水の陣を布く事で自らを窮鼠と成そうとしている。それによって乾坤一擲の戦を挑もうとしているのでしょう」
また皆が頷いた。背水の陣、窮鼠、乾坤一擲、その言葉が会議室に重く響く。

「思えば詰まらない小細工をしたものです。あの通信など敵にしてみれば児戯にも等しいものだったでしょう。ミッターマイヤー提督にも無意味な事をさせてしまいました」
自嘲するかのよう口調だった。司令長官の表情には笑みがあるが苦笑に近い。

「そのような事は有りません。あの場合、敵を引き摺りだすために挑発行為をするのは当然の事です。司令長官の策が無意味だと言うのは結果論でしょう。御自身を責めるのはお止めください」
司令長官を宥めたのはケスラー提督だった。その通りだ、あの時点では挑発が失敗に終わるなど誰も予想しなかっただろう。司令長官の責任ではない。

「それにしても貴族連合は意外に手強いですし慎重です。クロプシュトック侯の反乱鎮圧時に比べるとかなり違いますがどういうことでしょう?」
ロイエンタール提督が訝しげな表情で問いかけた。彼の気持は分かる、
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