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先恋
先恋〜あの人は〜

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辛いのは、僕だけじゃ無い、


其れなのに、僕は酷く、卑怯だ。


なら、もう、彼女の様に綺麗に戻れないのなら、いっその事……、



もっと卑怯になってしまえ____。


__駅前、切符を買い、一番近い、電車の時間を待つ。他の生徒は授業中。誰かに出会う心配など、不要だった。一つ…絶対に有り得ないと言えないのは…、沙奈が居るかもしれないということ。
恐らく、生徒との恋愛がバレるなどの事があれば、生徒より責められるのは教師なのだろう。だからこそ、恐らく沙奈は学校に戻る事は許されない。居るとしてもほんの少しだけ。今頃はもう……………。

ホームに電車が入ってきた。沙奈が居るわけでも無いのに、陸太は足早に、逃げる様にそこへと飛び込んだ。席に着くと、震える手を見つめた。思い出す。風邪で震えていた、沙奈の手…、一つを思い出せば、また一つ、また一つ…頭の中に全ての思い出が浮かぶ。
沙奈が挨拶で失敗した、そんな些細な事から始まった恋。どんな小さな感謝も忘れない沙奈。自分の気持ちをちゃんとぶつけ、最後まで向き合ってくれた沙奈。微笑み、優しく名前を読んでくれた沙奈。人生初の恋をし、初めて抱き締め、初めてキスをした人、沙奈………。

思い出すことすら許されないかも知れない思い出は、陸太の脳内に、心に、身体に広がっていった。もう、思うことなんて許されないのに__。

陸太を乗せた電車は、 ゆっくりと走り出した。



「陸太ぁぁっ????????」
「りっ君??りっ君??????」
陸太の居ない、その場所からは、陸太の両親の声が響いていた。大きな罪を背負いきれず、命を絶ってしまうのでは無いか、愛しあえないことを苦に、二人で命を絶つのでは無いか…そんな思いに押し潰されそうになりながら、此処にはない、その姿を探して、父母は叫び続けている。その声が陸太に届く事など、あるはずも無いのに…。

「りっ君…、りっ君……」



「…瑞木先生…きっと、僕達が出会う事は…二度とないと、そう…信じてます。」
陸太は電車を降り、何処かも分からない、来たこともない場所をただ、歩いていた。
「僕達は…出会うべきじゃ無かった、だからこそ、もう…」
陸太はそう呟き、ポケットに手を入れると、一つ、ペンダントを取り出した。此れはあの日…放課後、陸太が落とし、沙奈に拾ってもらったもの。あの…ペンダント。
「…でも、でも…やっぱり、初めてなんかじゃ無かった…」
陸太はペンダントを開き、そっと、中の写真を覗き込む。そこに写っていたのは…

「…瑞木先生は…あの時の、瑞木さん…だったんだ…………。」


その写真には、微笑み、ピースサインで写っている幼い日の陸太と、その後ろで立つ、数年前の、沙奈が居た_____。

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