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テキはトモダチ
16. 命令 〜電〜
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している。子鬼さんや戦艦棲姫さん……たくさんの仲間に囲まれて、今も元気に過ごしているはずなんだ。

 それは分かってる。分かってるけど……

 自分の手を握ってくれる人がいない。それがこんなにさみしいことだとは思わなかった。集積地さんが私の手を握ってくれない。それが、こんなにも心細くて寒いだなんて考えたこともなかった。

 夕焼けのオレンジ色が強くなってきた。心持ち気温が下がった気がする。……手が冷たい。手を合わせて温めたけど、それでも私の手は冷たい。そして『じゃあ資材貯蔵庫で温かいお茶を……』と反射的に考え、すぐにそれは無理だと思い出してがっくりきてしまう。集積地さんと過ごした日々が、私の中ではまだ日常なんだ。私の意識は、まだ集積地さんと一緒の日々を引きずっている。

 このままではいけない。資材貯蔵庫にそのままにしてある集積地さんの居住スペースも、司令官さんにお願いして片付けてもらおうか……そうすれば踏ん切りがつくかもしれない。

 夕日の逆光の中、水上を走る艦娘の姿が見えた。その姿を見て反射的に、集積地さんなのではないか……と淡い期待を抱いてしまう自分が情けない。あの人の家は、この海域から遠く離れたところだ。しかも集積地さんたちから見れば、ここは敵陣。一人でやってくるはずなどない……。それでも期待してしまい、そして集積地さんではないことにがっかりしてしまう自分がいる。

 だから私は、今見えている夕日の逆光の中でこちらに向かってくる艦娘を『また集積地さんではない人で、きっと私はがっかりするんだろう』と思いながら眺め、その人の姿を目で追い駆けた。

「……?」

 その人影は、私の姿を見てなのか何なのか……ドックではなく演習場になるこちらに向かってまっすぐ直進してきていた。

「……ここの人じゃないのです?」

 この演習場はそのまま海とつながっているから確かにここから鎮守府に入ることはできるが……この鎮守府の艦娘であればそんなことはしない。帰ってきた時は必ずドックに入り帰還する。

 人影が近づいてきた。逆光になってよく見えないが……その人は腰には剣を携え、背中には大きな円錐状の槍のようなものを背負っていた。槍からは砲塔が二本伸び、それが連装砲の類であることが見て取れる。

 その人は、埠頭に座る私の前まで来て止まった。槍状の連装砲の口径はかなり大きい……この人は、戦艦の艦娘なんだ。身体を動かす度に、ガシャガシャという金属が擦れる音が聞こえる。白地に真っ赤な十字が描かれた前掛けをしているけれど、どうもこの人は西洋の鎧に身を包んでいるようだ。

「……この鎮守府の者か?」

 集積地さんがやっていたゲームで見たことがあるような気のする兜をつけたその人は、自分の兜を外しながら私にそう問いかけてきた。

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