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天本博士の怪奇な生活
2部分:第一話
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第一話

            第一話  マッドサイエンティスト
「やれやれ」
 背の高い端整な若者が街中で嘆いていた。白衣を着ているのを見ると医者かまたは科学者か。どちらにしろ理系の人間であることは間違いない。
「怪我が絶えないなあ。博士のおかげで」
 彼は薬局の前で一人ごちていた。彼が嘆くのは自分の雇い主である天本博士のことである。
 天本破天荒。それが彼の名前である。白いタキシードにマントを羽織った科学者というよりはあからさまに怪しい爺さんであるこの人はそもそも天才であるのだ。
 だがここで問題が転がっている。天才だからといっても性格がまともであるとは限らず、そして人様の役に立つとは限らないのである。この天才博士は性格は名前の通り破天荒で、しかも人様の役に立つよりは笑いをとるタイプであった。およそ有り難い存在ではない。
 街でこの博士を知らない者はいない。街で一番の奇人変人として知られている。何か騒動があれば真っ先に警察が博士の研究所にやって来る。信頼はその程度である。つまり全然ない。
 彼はそうした人の助手である。助手から見ても実に困った人なのだ。就職難でたまたま給料も待遇もいいから応募したらそこはとんでもない場所だったのだ。
 薬局に入って絆創膏とかを買うと店の外から何か聞こえてきた。やいのやいの言っている。
「まさか」 
 嫌な予感がした。店を出るとそこにその博士がいた。
「おお、小田切君」
 そのタキシードにマントの白髪の老人が車椅子の上から彼に挨拶をしてきた。彼がその天本博士である。
 何でも子供の頃から神童で国立大学の理学部をトップで卒業したらしい。それからマサチューセッツ工科大学に留学してそこでも天才の名を欲しいままにした。理学だけでなく医学や工学の博士号も持つ本当の意味での天才だ。博士の発明は素晴らしいの一言に尽きる。
 これで人間がまともならもっとよかった。そう、彼は今時珍しいマッドサイエンティストだったのだ。
「新しい車椅子を発明したぞ」
 博士は上機嫌で言う。
「この前何かゴソゴソやってたあれですか」
 小田切君はそんな博士に醒めた目を向けていた。
「いきなりできたんですね」
「天才は発明ごときに多くの時間を割かんものさ」
 彼はその目なぞ意に介さない。大きく笑い飛ばす。
「これなんぞ簡単なもんじゃったわ」
「簡単ですか」
「うむ、核パルスエンジン搭載の車椅子じゃ」
「えっ!?」
「核だって!?」
 その言葉を聞いて小田切君だけでなく皆引いた。
「先生今何て」
「核パルスエンジン搭載じゃ。光の翼もビーム砲も分身も何でも出来るぞ」
「ちょ、ちょっと博士」
 小田切君は辺りを見回しながら博士に囁く。
「冗談ですよね」
「ははは、わしは冗談なんぞ言わんぞ」

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