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不吉な夢
第一章

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                 不吉な夢
 エイブラハム=リンカーンはこの時激しい疲労を常に感じていた。
 戦争は最早終結間近だった、苦しい戦争だったがそれが終わろうとしているのだ。
 だから嬉しい筈だ、しかし。
 リンカーンは側近達にもだ、疲れた顔で言うのだった。
「鏡と観るとね」
「はい、そのお顔がですね」
「青ざめていてですね」
「死んだ様だと」
「そうしたお顔なのですね」
「しかもね」
 それにというのだ。
「その顔を観る時が増えている」
「プレジデント、やはりお疲れでは」
「激務が続いています」
「それでなのでは」
「そうしたお顔に見えるのでは」
「確かに最近常に仕事がある」
 リンカーンは己の席で話した。
「何かとな、しかしだ」
「それでもですか」
「そこまでお疲れではない」
「死んだ様なお顔になるには」
「そこまではですね」
「君達に聞く」
 側近であり常に自分の顔を見ている彼等にだ。
「私の顔はそこまで疲れているか」
「確かにお疲れです」
「激務がお顔に見られます」
「それはそうですが」
「しかしです」
「そこまでは、です」
 青ざめて死んだ様な顔になっているまではというのだ。
「至っていません」
「目の光も確かです」
「プレジデントのお顔は生きているものです」
「そのことは間違いありません」
「そうか、では何故だ」
 リンカーンはその細長く見事な髭がある顔を曇らせて言った。
「鏡に映る私の顔は死んだ様な顔なのだ」
「鏡には魔力があるといいますが」
 側近の一人がオカルティズムから話した。
「ですから」
「鏡に映るものはか」
「プレジデントにとっての何か」
「ではそれは何だ」
「私もそこまでは」
「わからないか」
「はい」
 その側近はリンカーンに暗い顔で答えた。
「申し訳ありませんが」
「謝る必要はない、しかしだ」
「それでもですか」
「鏡に映る私はか」
「やはりプレジデントに何かあるということでしょう」
「それを私に見せているのか」
「そうでは」
 こう言うのだった、リンカーンに。
「やはり」
「ではそれは何だ」
 リンカーンは今度はこのことについて考えはじめた。
 そしてだ、すぐにこう言ったのだった。
「どうもあまりだ」
「あまり、ですか」
「いいことを知らせてはいないな」
「プレジデントに」
「そう思う」
 こう言うのだった。
「あの顔を見ているとな」
「青ざめて死んだ様な」
「そうだ、何があってもな」
 リンカーンは不吉なものをはっきりと感じる顔で述べた。
「私は驚かない」
「左様ですか」
「戦争は間も無く終わる」
 このことは間違いないというのだ。
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