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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第一話 聚楽第
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思い出したように頷いた。

「小出殿、急ぎましょう」

 俺は治胤に急かされながら奥の方へ案内された。五年前に秀吉が弟を養子にするまで必死に自分を殺していた。それ以後は学問に励み、徐々に武芸にも励んだ。お陰で弓の腕はそこそこ自信がある。十歳になると野山を駆け巡り川で水泳をし身体を作るために勤しんでいた。
 しかし、年月は早いものだ。俺には秘密がある。
 俺は一度死んだ。そして、気づいた時には赤子だった。見知らぬ場所で身動きできない不自由な生活に最初は戸惑い、鬱屈した日々が送っていたのが昨日のことのようだ。俺の秘密とは未来で死に過去に生まれ変わったということだ。
 俺の記憶を辿ると、俺が会社員として働いた日々のことを思い出す。俺の名は火鏃源一郎。働き盛りの三十歳で悪性の癌を煩い治療の甲斐もなく鬼籍に入った。歴史オタクの俺がやり残したことと言えば結婚だろう。俺を看取った両親の顔を思い出す。俺が早く結婚して子供がいれば、両親の哀しみを幾ばくか和らげることができたかもしれない。今更、詮無いことと分かっているが心残りだった。だが、最近ようやく気持ちの整理できた。
 俺が物心つく頃になると、俺の実父が木下家定であると理解した。あまりにマイナー過ぎて知らない人の方が多いに違いない。父はあまりに平凡過ぎて大名という雰囲気の男ではない。秀吉と出会わなければ小豪族で人生を終えたはずだ。父より、弟の方が有名だろう。弟の名は小早川秀秋だ。現在は羽柴秀俊と名乗っている。弟は四歳で秀吉の養子となり、豊臣家の後継者候補の一人となった。それに対し俺は秀吉の仲介により、彼の従弟・小出吉政の養子に入った。養子に入った当初は可愛がられていたが、俺より八歳年下の小出吉英が生まれると俺は微妙な立場になった。この手の話は歴史上お約束と言っていい。だが、俺の養子入りは秀吉の仲介で行われたこともあり、秀吉健在の状況で露骨な嫌がらせを受けることは無かった。
 この先の未来を知る俺は自分の人生を変えたいと考えている。ただし、豊臣家の滅亡を阻止したいなどとご大層な考えは持っていない。このままだと俺は関ヶ原の戦い後に没落し秀秋の食客となり、秀秋が死亡する前後に変死することになる。その運命に抗うにはある程度出世し没落しないように足掻く必要がある。
 今年、ようやく元服した。俺は十二歳になった。幼名・卯之助を改め小出俊定(こいでとしさだ)と名乗ることになった。自分の生まれ年が呪わしく思う。この歳では手柄を上げる機会は限られてくる。
 だが、元服して清々しい気分だ。ようやく小出家から離れられる。これからも小出家の影響はあるだろうが、俺は自由に生きさせてもらう。
 必ず生き残ってやる。大名として生き残れば上々。最悪、旗本でもいいと考えている。何としても豊臣から徳川の時代への変わり目を無事に渡りきっ
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