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転生なんて冗談じゃねぇ
TETIGAI:0 (第0話)

前書き [1]後書き
 心地よい風が吹いている。物理的に吹いているわけではない。「風」とはいわばオレにもたらされている幸福のこと。たとえだ。オレ――転野生輝は今、人生の絶頂期に立っている!

 高校デビューに成功して彼女もでき、憧れだった大学に入る夢も叶い、この間有名なホワイト企業に受かり……とにかくウルトラ順風満帆なのだ!
 パッと歩道の信号が青に転換した。それを視認、即座走り出す。待ちくたびれたぞ、早く行かせろ。これから婚約指輪を買いに行くんだよ。ずっと支えてくれた彼女にプロポーズを決め込むためになァ!!

 と、右側に気配を感じた。オレは反射的にそっちへ注目する。

 呆気にとられた。眼前の世界に、口をあんぐり開けた。

「……は?」

 推定二メートルぐらい先に、なんとトラック。信号無視をして出てきたというよりは、いきなりこの場に登場したみたいな――――

 顔を青くする暇もなかった。まるで大砲弾をくらったかのような超衝撃が、体の側面を起点として全身を伝った。

「がはっ――」

 直後に浮遊感がし、そしてオレの思考と意識は停止した。




「……げふっ……」

 言葉にならないほどの鈍痛で気がつくと、視界には駆けていたはずの歩道があり、端にはグロテスクな深紅の液体が流れているのも見えた。悲鳴のようなものがいくらか届いてくる。体も、漠然と熱い。

 しかも、すぐこの知覚は消えはじめた。痛みが何故だかどんどん弱くなる。口内でじんわり広がっている鉄味がしなくなっていく。勝手に自分の両の目が閉じていくのがわかる。距離は変化していないだろうに、どんどん声は遠ざかって聞こえなくなる。街中のニオイに至っては全く嗅ぎとれない。さらに……体は動かせないし、動かそうと思う気力さえも湧かない。

 何が起こった……轢かれたのか? しかも生気が無くなってきているのか? じゃあオレは……


「死ぬ、のかな?」

 問いに答える奴はいなかった。残った砦、考える力も徐々に失せていく。オレは心中のムズムズを抱えたままに、認めたくない近未来の結論を出した。


 ――――オレ、たぶん死ぬんだな。

 再び、思考と意識がぶっ飛んだ。
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