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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第33話 流浪の剣士ダタッツ
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自室に塞ぎ込んでしまっていた。
 愛する娘のためにも。居場所を失ったあの少年を、もう一度迎え入れるためにも。なんとしても、彼を見つけ出したい。
 それが、帝国の理想に貢献してくれた勇者への、せめてもの報いとなるならば……。

 その思いを胸に、皇帝は勇者の像を静かに見下ろす。憂いを帯びた彼の瞳は、在りし日の少年の姿を求め続けていた。

(……タツマサよ。そなたは今、どこにいるのだ……。せめてこの世界のどこかで、生きていてくれ……)

 ――その頃。
 王国領のとある山中を、一台の馬車が進んでいた。銀髪を靡かせる、一人の武人を乗せて。

「……バルスレイ将軍。この辺りが、例の噂があった場所です」
「……そうか」

 武人の名は、バルスレイ。帝国騎士の頂点に君臨する最強の武将として知られ、戦後処理に貢献した人物でもある。
 彼は今、ある噂を確かめるために副官を連れ、この山道を進んでいた。

「しかし、どうにも信じられませんな。かの勇者様が、このような場所に現れたなどと……。最後に消息を絶たれた森林地帯からも、遠く離れているというのに」
「確かに、ただの噂でしかないかも知れん。……だが、皇帝陛下にとっても私にとっても、今はそれで十分なのだ。……皇女殿下の御気持ちを思えば、な」
「は……失礼しました」

 馬車の中で向かい合う二人は、神妙な面持ちで窓から伺える森の風景を見遣る。二年前まで戦火に脅かされていたとは思えぬほど、穏やかな景色だった。

 王国のとある山に死んだはずの帝国勇者が現れ、そこに逃げ込んでいた敗残兵を虐殺した。
 バルスレイがその噂を耳にしたのは、先月のことだった。戦後処理を終え、王国の監視を上流貴族のババルオに託していた彼は、その噂を確かめるべく、再びこの異国へ足を踏み入れたのである。

「……ですが、なかなか有力な手がかりには辿り着けませんな……。先ほど立ち寄った村でも、それらしい情報は得られませんでしたし」
「本当に、そうか?」
「え……?」

 だが、副官が言うとおり情報収集は難航していた。彼らは道中で、大浴場を名物とする村に立ち寄っていたのだが――噂の場所から一番近い人里からも、手がかりは得られなかったのである。
 やはり、この噂はただの噂でしかなかったのではないか。副官は、そう思い始めていた。

 ――しかし。バルスレイは、そうではない。

(聞き込みの際に帝国勇者の名を出した瞬間。彼らは一瞬だが……全員が怯えたような顔をしていた。戦場から遠く離れ、戦火に晒されることもなかったあの村の人間にしては、反応が大き過ぎる。直にその存在と力を見た人間でなければ、あそこまで過敏に反応すまい)

 有名な人物の名前を出す時。その人物をよく知っている人間と、話に聞いただけの人間
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