暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第5話 姫騎士の追憶
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肩を震わせ涙を流していた。
 その様を眺めながら、ババルオは大仰に手を広げ、ダイアン姫を褒め称えていた。

「どうしたものかと思っていたのですが……あのヴィクトリア嬢の他にも、このようなお方がいらしたとは。今後、このようなことがないよう指導は徹底するつもりですが――万一の時は、遠慮は無用です。私としても、この美しい王国の大地が涙に濡れるのは忍びない」
「ひ、ひぃい……!」
「……」

 この帝国兵達に次はない。王女の判断で斬ってよし。そう言い切られた本人達は、己が置かれた状況に震え上がるのだった。
 だが、その言葉に真摯さなど欠片もないことを、ダイアン姫は知っている。王国に涙を流させているのは、他ならぬ――この男なのだということを。

 ヴィクトリアから聞かされていたババルオの醜聞。その話に違わぬ噂。そして、今目の当たりにした、ババルオ本人の下卑た眼差し。
 全てが、ダイアン姫の胸中に訴えているのだ。戦争に負けても、勇者に負けても、大切な人を失っても――この男にだけは、屈してはならないと。

「しかし……我が帝国の兵士を、こうも完膚なきまでに打ち倒してしまわれるとは。ダイアン姫様もヴィクトリア嬢に劣らぬ剣技の持ち主のようですな。我が帝国の兵士達が習得している帝国式闘剣術(ていこくしきとうけんじゅつ)など、足元にも及ばぬ様子」
「……ありがとうございます」
「いやはや、本当に素晴らしい。是非とも、その洗練された貴方様の剣を拝見したいものですな。先程は現場に到着したばかりで、見逃してしまいましたし」
「……」

 歯の浮くようなババルオの台詞に、ダイアン姫は眉を顰める。そんな彼女の反応に目もくれず、ババルオは話を続けた。

「そこで――いかがでしょう。ダイアン姫様の剣腕を披露して頂く代わりに、私が王国に干渉する範囲を狭めるというのは?」
「……!?」

 その時に飛び出てきた話に、まともに取り合うつもりのなかったダイアン姫が、初めて目を剥いた。そして、彼女の反応を見逃さなかったババルオの口元が――獲物を捉えた獣の如く、歪に吊り上がる。
 王国を監視するババルオが、城下町の支配から手を引く。それはダイアン姫をはじめとする王国側にとっては願っても無い話だ。

 終戦協定では、帝国の監視つきである代わりに王族の政権が保障される形になっているが、実質的には監視役のババルオによる恐怖政治が敷かれていると言っていい。
 ババルオの私兵である帝国兵達に王国騎士団や町民が怯えているのが、その証だ。それを率いているババルオ本人が手を引くことは、王国に真の平和が戻ることを意味している。

 だが、ダイアン姫の剣術を見たいというババルオの要求とはどう考えても釣り合わない。必ず、何らかの「裏」がある。

「貴方様は国の自由
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