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批評家
第三章

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「筆致に富んだユニークな」
「確かにね」
「あの作品はよかったね」
 友人達も言う。
「多分に長かったがね」
「ワーグナー氏の作品はおおむね長いが」
「しかしあの作品は特に長かったね」
「信じられない位にね」
「そう、長過ぎてだよ」
 ハンスリックも作品の長さについて指摘した。
「その中に退屈で不愉快な音楽がやたら続く」
「それがだね」
「あの作品の難点」
「そう言うんだね」
「そう、そして彼の作品の癖の強さが出て」
 それでというのだ。
「オーケストラが強いね」
「それもだね」
「あの作品の難点だね」
「そうしたところも」
「喜劇というよりは」
 むしろとだ、ハンスリックはその理知的な目を光らせて言った。口ひげを生やし前から見事に禿げ上がった頭にしっかりとした眉が知性を醸し出している。
「交響曲」
「そうした作品だというのだね」
「あの作品は」
「マイスタージンガーは」
「そう、そもそもワーグナー氏は」
 ワーグナーへの話にもなる。
「今一つユーモアがないね」
「確かにそうだね」
「ワーグナー氏にはそれがないね」
「言われてみればそうだね」
「そもそも初期に喜劇があった様だけれど」
「それでもね」
「喜劇というと」
 ワーグナーにそれはとだ、友人達も言う。
「縁を感じないね」
「どうにもね」
「言われてみると」
「そうだね」
「そう、軽さや気取りのない陽気さとは無縁だ」
 それがワーグナーだというのだ。
「この作品の重要な部分も」
「それは何処だい?」
「確かに長いが見所も多くある作品だが」
「その重要な部分は何処だい?」
「それで一体」
「灰色の砂漠、その中のオアシスの様な光」
 文学的な前置きからだ、ハンスリックはマイスタージンガーのその場面について話した。
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