第四章
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「ですから」
「それで、ですか」
「彼の優勝ですか」
「貴方はそう言われますか」
「その様に」
「皆さんはそれぞれの方を選ばれて下さい」
確かな声でだ、ゴルシピンは他の審査員達にこうも言った。
「皆さんの思われるままに」
「そうですね、今回はです」
「彼ですね」
「やはり彼が一番ですね」
「ゴルシピンさんが言われる様に」
「そうですね」
「彼の実力は群を抜いています」
こう言うのだった、他の審査員達も。こうしてその彼が優勝となったがこの話は外にも漏れ伝わった、それで彼の評価をさらに高めた。
それでだ、ある意地悪な音楽ジャーナリストが彼にあえてこう尋ねたのだった。
「貴方はあのコンサートで審査員のお一人でありました」
「それが何か」
「若しもですよ」
ジャーナリストは意地悪い笑顔で彼に尋ねた。
「貴方が彼を駄目だと言えば」
「それで、ですね」
「彼は優勝しなかったかも知れません、それに」
「私が優勝させなかったことで、ですね」
「はい、彼が世に出ることと阻めたかも知れないです」
「僕以上の才能の持ち主が世に出ることを」
「それで貴方の地位は安泰だったかも知れないですが」
こう尋ねるのだった。
「貴方はそうされなかったのですね」
「最初からそんなことが出来るとは」
ゴルシピンは極めて冷静にだ、ジャーナリストに話した。
「考えていませんでした」
「最初からですか」
「はい、最初からです」
まさにというのだ。
「考えもしませんでした」
「では貴方以上の才能の持ち主が出ても」
「その人物は既にいますので」
「シャイコフさんですか」
「はい、既にあの人がいます」
「では」
「僕以上の演奏家が出ても」
それでもというのだ。
「それに嫉妬し邪魔をする考えはありません」
「既にあの人がいるからこそ」
「そうです」
「そうですか、ではです」
ジャーナリストはさらに意地悪いところを見せた、それでだった。
その意地の悪い笑みでだ、こうも言ったのだった。
「若しあの人がいなければです」
「僕はどうなっていたか」
「彼を優勝させなかったですか」
「それはわかりません」
ゴルシピンはあっさりとだ、ジャーナリストにこう答えた。
「僕には」
「そうなのですか」
「はい、ただ神は必ず人に何かを用意されますね」
神のことを話した、今度は。
「そうですね」
「はい、確かに」
それはとだ、ジャーナリストも答えた。
「私も無神論ではないのでそう考えます」
「はい、それではです」
「シャイコフさんとですか」
「あの人に会わずとも」
それでもというのだ。
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