第三章
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「そうだったわね」
「そうだよ、それでずっとピアノに親しんでいたけれど」
「それでもなのね」
「彼にはね」
シャイコフにはというのだ。
「とてもね」
「勝てないのね」
「勝っていないよ」
とても、というのだ。
「どうしてね」
「勝っているのか」
「そうだよ」
こうも言うのだった。
「思えないよ」
「その時の衝撃は相当だったのね」
「それまで僕は一番だと思っていたよ」
十一歳のその時まではというのだ。
「ピアノならね、実際にいつも優勝していたからね」
「そのコンクールの時にあなたは出ていなかったわね」
「うん、違うコンクールに出ていたけれど」
その時にというのだ。
「たまたま母に連れられて聴きに行ったら」
そのコンサートにというのだ。
「あまりにも凄くてね」
「それでなのね」
「そう、自分のピアノは地の底にあるって思ったよ」
シャイコフの演奏と比べてだ。
「あの人が天の極みにあってね」
「地の底ね」
「うん、そうだよ」
まさにというのだ。
「今も尚ね」
「そう思ってるのね」
「そうなんだ」
まさにという言葉だった。
「そうね」
「本当に衝撃だったのね」
「だから今も言うんだ」
この様にというのだ。
「本当にね」
「そして今のあの人も」
「聴く度に思う、あの人の演奏は天の極みにあるよ」
「そうなのね」
「そして僕の演奏は地の底だ」
「けれど、よね」
「そう、その地の底からね」
まさにというのだ。
「僕もね」
「天の極みになのね
「行くよ」
「そうするのね」
「必ずね」
強い言葉で言ってだ、そしてだった。
彼は己の演奏を高めていった、自分では地の底にいると思いながら必ず天の極みに彼がいるその場所に行く為に。
そうして演奏を続けていってだ、そのうえで。
あるコンクールの審査員になった時にだ、ある若い演奏家の演奏を聴いてだ。彼は他の審査員達にこう言った。
「彼は私以上です」
「いや、それは」
「流石にそれはないかと」
「貴方以上の演奏とは」
「幾ら何でも」
「いえ、私はそう思いました」
その演奏はというのだ。
「それ程までです、ですから」
「それで、ですか」
「優勝は彼ですか」
「彼にされますか」
「彼ならです」
まさにというのだ。
「これから大きく羽ばたけます、いや羽ばたきます」
可能でなくだ、絶対だというのだ。
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