暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
Where there’s smoke, there’s fire.
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サウンドエフェクトが響き渡った。

ヒスイはハッと顔を上げ、身体の前方、胸より少し低い位置に表示されたアイコンを指先で押す。

アイコンの意はフレンドメッセージ着信を知らせるものだ。瞬時にウインドウが展開し、着信したメッセージを伝える。

とは言え、地位の関係、ヒスイのフレンド欄は公私ともに結構な数がいる。誰なんやろ、と思いながらも差出人を確認した彼女は僅かに目を見開いた。

そして内容に目を通す。用件だけの短い内容だったが、それを見たヒスイは数秒固まり。

そして――――

「……ほーぉ」

とびっきり悪い顔で、笑った。










雑踏の中でその一幕を見ていた一人のケットシーは、視線を戻し、行きかう人だかりの中をスルスルと動き出した。

その動きに淀みはない。熟練のプレイヤーならばよく分かるが、VR環境下で人とぶつからずに群衆の中を動き回るのは立派なプレイヤー独自のシステム外スキルだ。器用に人の隙間を縫っていくその動きを見、練達していると言えど、初心者と言う者はいないだろう。

手近な宿屋に入り、カウンターで手早くチェックインを済ませる。

あてがわれた部屋へ向かう道程でメーラーを起動し、そのプレイヤーはただ一言を入力した。

『翅は?がれた』

部屋のドアノブに手をかけたプレイヤーは一度だけ背後を振り返り、ドアを開ける。《聞き耳》スキルでも使わなければ侵されることのない絶対領域の中で、心置きなくそのプレイヤーは送信ボタンを押した。

返信は一瞬。

送られてきたメールには、そっけない字体でポツンとした単語が置かれていた。

『了解』

そのケットシーはしばらくの間。その簡素なフォントを見ていた。

ニィ、と口角が持ち上がる。

浮かぶのは焼け爛れた、分厚い肉塊から迸る肉汁のような欲望。

現実の時間と互換性がないALOの夜は短い。あと一、二時間もすれば白み始めるだろう夜空を窓枠越しに見上げながら、一人のケットシーは腹を抱えんばかりに嗤い転げた。

宿屋のドアは内からの音の一切を断絶する。

その絶対の遮音性に感謝しながら、プレイヤーはしばらくの間ベッドの上で哄笑を響かせていた。

仮想の星空は憎たらしいほどに眩しかった。

妖精郷の夜は今日も更けていく。
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