暁 〜小説投稿サイト〜
【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
第四章 魔族の秘密
第38話 施術に一番大事なもの
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「なんで、泣いてるの」
「キミの手は、温かくて懐かしいんだ」
「……たしかに、よく温かいとは言われるけど」

 理由になっていないような気がしたので、コメントが難しかった。
 ぼくはハンカチ代わりに使っていた布をポケットから取り出し、彼女の顔にかぶせてあげた。

「よくわからないけど……ここにはぼくら以外誰もいない。思いっきり泣いても、いいんじゃないかな」

 そう言ったら、彼女は堰を切ったように号泣し始めた。



 ***



「おれは勇者様が泣いているのを初めて見た」

 勇者が帰っていったあと、マッチョ男がスツールを片づけながらそんなことを言う。
 こちらは返事に困る。

「そう言われても……なんで泣かれたのかわからないんだけど? 彼女のことはよく知らないしね」
「……理由は二つ思い浮かぶが」
「なんだろう」

「勇者様はお前の手が懐かしいとおっしゃられていた。
 あの方は勇者として育てられるために、幼いころに両親の元から引き離されている。その頃の記憶がどれだけ残っているのかはわからないが、郷愁があったのは間違いないだろう」

「ええ? そうなんだ? 引き離されてってことは、彼女は志願して勇者になったんじゃないんだ?」

 片づけ終わった彼は壁に寄りかかり、ぼくのほうを見て黙って頷いた。

 ……。
 彼女が作られたジャンヌ・ダルクだったとは。
 望んだわけでもないのに国を背負うことになったわけだ。

 なんということだろう。
 そのプレッシャーは想像を絶するものだったに違いない。

「一国の運命を背負わせるような役を無理矢理やらせていたんだ。ひどいな」
「勇者様は逃げずに役目を果たし続けてきたから、同情されたくはないだろうがな」
「……」

 リンブルクの戦いのときを思い出す。
 ぼくは彼女に「ずるい」と言われ、説教された。

 あのときはいきなり何を言い出すんだろうと思ったが。
 彼女がそういう生き方をしてきたのであれば、気持ちが少しわかるような気がしないでもない。

「じゃあ、もう一つの理由は?」

 一つの理由の説明しかなかったので、聞いた。

「お前だろう」
「は? どういうこと?」
「わからないのはお前の勝手だ。おれに説明する義務はない」



 ***



 この世界には月が存在しない。
 夜になると、空からは星の光が唯一の光源となる。

 しかし、この迎賓館は都市の中央部にあると聞いている。
 そのせいだろうか。軟禁されているこの三階の部屋、その窓から顔を出すと、他の建物の窓から漏れる仄かな灯りがたくさん見えた。

 当然だが、下を見ると地面までかなりの距離がある。
 紐を作って降りることは
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ