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百人一首
75部分:第七十五首

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第七十五首

               第七十五首  藤原基俊
 約束してくれた。その時のことをどうして忘れられようか。
 忘れられる筈がない。己よりも大切な我が子のことだから。
 昇進させるという言葉。その言葉を聞いた時はどれ程のものだったか。
 その時の歓びを忘れることは決してない。どうして忘れられようか。 
 心から嬉しくとても頼りにしていた言葉だった。その言葉をどうして忘れられようか。心から頼りにしていたのだから。
 けれどそれは儚い思い出でしかなく。今年の秋も結局のところぬか喜びに終わってしまった。
 選に漏れて時間だけが空しく過ぎ去ってしまった。後に残っているのはぬか喜びの空虚な名残。それだけが残っている。他には何もありはしない。
 親としての儚い望みか。このことは。そう思いながらもそれでも思いは消えずそれは歌になる。歌にせずにいられない今の辛い気持ち。それを今ここに書き留めることにした。

契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり

 秋の空しい木の葉の漂い。それを見つつ思うのはそれにも似た今の自分の心。我が子のことを思わずにはいられないけれどそれでも。どうしても思わずにいられなかった。詠わずにはいられなかった。この辛く空しい心。何時か実りの秋になるのだろうかと儚く思いながら。


第七十五首   完


                 2009・3・21

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