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百人一首
53部分:第五十三首

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第五十三首

               第五十三首  右大将道綱母
 夜は長いもの。このことに気付いたのはあの人を知ってからだった。
 今宵も来ない。昨日と同じで。
 一人でいる夜がこれだけ長いとは。気付いた今はあまりにも悲しかった。
 黒髪よりも長い夜明けがこれだけ辛いとは。これだけ寂しいとは。
 夢にも思わなかった。
 寂しく一人で過ごす夜。我が子を寝かせてそのうえで一人で過ごす夜。
 夜空に月はあれど語り掛けてくれる筈もなく。また一人で夜を過ごすことになっている。
 あまりにも長く寂しい夜。ただあの人を待って月を見ているだけ。
 月は何も語らず輝いているだけ。ただそれだけで。何もしないしまるでそこに永遠に留まっているかのようで。見ていると余計に寂しさが増してくる。
 そんな寂しい夜の中であの人を怨み。怨みつつも来て欲しくもどかしく思い。その二つの気持ちの中でやはり寂しさを感じている。
 自分でもわかっている。それはあの人を慕っているから。けれど移り気なあの人はそんなことはお構いなしに今宵も来ない。この慕う気持ちは自然に歌になって出て来た。

なげきつつ ひとりぬる夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る

 歌になって出て来たこの気持ち。詠えどあの人は来ないけれどそれでも気持ちは伝えたく。今こうして詠った歌はいずれあの人に送ろうと思いつつまた一人でその人を待つ。待てど来はしないことはわかっているけれどそれでも。待たずにはいられないこの気持ちを抑えられないのだった。


第五十三首   完


                 2009・2・19

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