暁 〜小説投稿サイト〜
ミシュラー
第四章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「あっさり負けるらしい」
「あっさりなんだ」
「それもここぞという時にな」
「負けるんだね」
「そうらしいな」
「何か変な虎だね」
「その日本人は笑ってそんなことを言っていた」
 ジョークとして、というのだ。
「こっちの女も豹や虎だとわしが笑って言ったらな」
「日本の虎の話をしてくれて」
「そんなものらしい」
「日本の虎は弱いんだね」
「燕に負けることもあれば鴎や鷹には全く歯が立たないらしい」
「鷹はわかるけれど」 
 強い鳥だ、だからアサムもこの言葉には頷くことが出来た。
「燕や鴎に負けるっていうのは」
「虎としては情けないな」
「猫より弱いんじゃ」
「わしもその話を聞いてそう思った」
「人間でも普通に勝てそうだね」
「全くだ、とにかく正念場になると不思議な位よく負けるそうだ」
 日本の虎の話をさらにした。
「コウシエンという場所でな」
「コウシエン?」
「日本にはそんな場所もあるらしい」
「フジサンなら聞いたことがあるけれど」
 教科書でだ。
「何、そこ」
「わしも知らん、しかし日本の虎はだ」
「燕や鴎に弱いんだね」
「特に鯉とかいう魚に弱いらしい」
「そんな魚も日本にいるんだ」
「何でも食うと物凄く美味いそうだが」
「けれど虎を負かすって」
 その鯉という魚についてだ、アサムはこんなことを考えて言った。
「弱くても虎だから。鯨より大きいのかな」
「あっちは鯨食うしな」
「そうしたお魚なのかな」
「そうかもな」
 こうした話もした、親子で。そして。
 式の時にだ、アサムは父のウサインと祖父、爺様であり店の大旦那であるサダムからだった。
 服を一式譲り受けた、ウサインは彼に服を手渡してから言った。
「これがだ」
「僕が今から着る」
「ミシュラーだ」
 その服だというのだ。
「とびきりのな」
「それだね」
「よいか」
 白い髭の顔でだ、サダムも孫に言ってきた。
「これはうちで一番いい服だ」
「ミシュラーの中でも」
「わしの爺様が作らせたものでな」
 年季もあるというのだ。
「ツブンもクーフィーヤもイガールもだ」
「そうしたものも」
「とびきり上等の生地を使ってだ」
 そしてというのだ。
「最高の職人に作らせた」
「そうしたものなんだ」
「御前はそれを着てだ」
 そのうえで、というのだ。
「式に出ろ、そしてだ」
「新婦を」
「その心を掴め」
 一世一代の晴れ着の力でというのだ。
「いいな」
「うん、父さんにも言われたけれど」 
 確かな声でだ、アサムは父を見つつ祖父に答えた。
「そうするよ」
「そしてこいつから聞いたな、結婚してからは」
「奥さんを大事に」
「何よりもな」
 祖父は息子を見つつ孫に言った。
「そうし
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ