一
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あれはもう何年前のことでしょうか。数か月前のことかもしれません。
目が覚めると私は館の中の、一室の隅で壁に寄りかかって座っていました。
想像し難いでしょうか。御伽話に出てくるような立派な館でした。深い赤と緑の絨毯が敷かれ、私の丁度直線状には暖炉があり暖かく燃えていました。テーブルは大きく細長く大理石のような素材でしょうか。長く大きなテーブルに対しチェアーは5台しかありませんでした。この椅子もまた立派でございました。私は家具に詳しくはないのですが、いつか拝見いたしましたカッシーナの背の高いチェアーに似ていました。
そして家具はすべて猫足でした。アンティーク調で妙に落ち着いたものでした。
私が寝起きのぼんやりとした頭と目で部屋を見回していますと、横のドアが開き何者かが入ってきました。
脹脛ほどまである金の釦のついた黒いコートを身にまとった長身の男性と男性の腰位までしか背丈がない、これまた黒いケープ付きの西洋画にでも出てきそうな女の子が手を繋いで入ってきたのです。
鋭い読者の皆様ならばお察しでしょう。そうです。私がこれから残そうと思っていることはこの二人のことなのです。
つまらないでしょうか。しかし私にとっては生きる希望になってしまったのです。
彼等はゆっくりテーブルに近付くと男性がマッチを擦り蝋燭に火を灯しました。
暖炉の光は暖かいものですね。彼が蝋燭に火をつけるまで私は部屋に光が灯っていない事に気が付きませんでした。
女の子は特に動くこともなくボンネットを飾った小さな頭を男性の腰に寄り掛けていました。
三本の蝋燭に火をつけ終えると、男性は女の子の肩を優しく二回叩きそのまま肩を抱え二人はソファへ移動され、女の子を抱え上げソファに座らせるとご自分は床に跪き女の子のボンネットの紐を外してやりコートを脱がせてやりひざ掛けのような物で喪服のようなワンピース姿になった体をくるんでやったのです。
ご自分も立たれるとコートの釦をを外し小さなコートと一緒に立派な箪笥の中にしまい込まれました。このような家では箪笥よりもクローゼットと表すべきでしょうか。語彙が乏しい老人ですのでどうかご容赦くださいませ。
暫くぼんやりと様子をうかがわせていただいておりますと下女のような女が部屋に一礼し入ってきて、テーブルにそれはそれは美味しそうな料理を三人前並べ始めました。
どうやらこの二人の他にまだ料理を出してもらえる人間がいるようでした。そして私は不意にこれはいつの食事なのか気になりました。部屋には大きな窓があるようですがすべてカーテンが閉められていました。
そういえばこの部屋には時計がありません。物置もテーブルもソファも全てアンティーク調で洒落た部屋ですのに一番存在感のありそうな時計がありませんでした。
一先ずこのページはこれで終いとさせて頂きま
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