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百人一首
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第三首

                第三首  柿本人麿
 秋の夜は長い。とりわけ愛しい人が来ないのを待ちながら過ごす夜は。俗にそう言われてきたが彼は今そのことを誰よりも実感していた。
 酒を飲んでも美味くはなく月を見ても侘しいだけだ。孤独に凍え時を過ごす辛さを今感じている。それをどうにかしてくれる人も来ずただ時間だけが長い。月が照らし出す己の影を見てもそれは語らず誰も慰めてはくれない。すすきが風にたなびき左から右へ。満月が黄金色に輝くがその光も弱い。彼はその中で一人。夜も遅いのに一人で己の家から外を眺めている。そうして時間を過ごしていく。
 だがやがてあるものを思い出した。鳥を。自分と同じように一人で夜を過ごす鳥を。夫婦だというのに夜は別れて眠るという鳥を。その鳥のことを思い出し余計に寂しさを増していく。寂しさを紛らわせようと酒を口にしてもその酒も心を楽しくはさせてくれず。彼は遂に筆を手にした。そうして書くものは。

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝ん
 
 書き終えて溜息をつき。どうにもならない気持ちを抱いたまま今度は恋文を書き。それを送ろうとするがそれも止めて。溜息だけを残してこの夜は眠りに入る。来ることのない愛しい相手のことを想いながら。寂しさと哀しみにその身を浸しつつ。眠れぬとわかりつつ横にはる。寂しい夜の中で一人。長い夜を過ごす。


第三首   完


                  2008・12・1

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