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百人一首
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第二十三首

                第二十三首  大江千里
 夏には一緒だったのに。そのままずっと一緒だと思っていたのに。 
 恋は終わってしまった。呆気なく終わってしまった。
 今は秋だけれど一人になってしまっている。恋の終わりは実に儚いものだ。
 けれど心はまだ夏にあって。夏に別れたあの人を想わずにはいられない。
 夜にこうして月を見上げていても。
 あの人のことを思い出して涙で月が滲んで見える。泣くまいと思っていたがそれでも涙は出てしまうのだった。静かに、だがとめどなく流れてくる。それを止めることは自分ではどうしようもなくなっている。
 その悲しみの心を風が吹き抜けていく。
 月は夜空に一つあるだけだけれど。今は自分も一人だと思い。しかも風も一人だと思い孤独に心を覆われてしまっているのを感じずにはいられない。想いは次第に募りどうしようもなくなっていき。やがて孤独を深めさらに強くなっていく。彼の中で。
 そうしてその孤独を感じながら。今歌を詠むのだった。

月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ 我が身一つの 秋にはあらねど

 歌に今の心を詠ってみた。詠ったところでこの孤独は癒されはしないけれどそれでも。今は詠うのだった。その深い寂しさを己の中に感じながら。今は一人その夜の中で沈黙と孤独を噛み締めつつあの人と歌のことを想うのであった。


第二十三首   完


                  2008・12・21

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