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百人一首
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第二十一首

                 第二十一首  素性法師
「今宵お伺い致します」
 その言葉を信じて待っていた。
 すだれをあげて月を眺めつつ。
 月もまたあの人を待ってくれている自分を気遣ってか優しい光で辺りを照らしてくれている。
 けれど来ない。もう来るだろうもう来るだろうと思っていたが来ない。遂に夜は明けて夜明けの月を見ることになってしまった。その間一睡もしてはいない。
 呆れるよりも心配になってきた。あの人のことは誰よりもよく知っているつもりだから。
 想いは強いけれど移り気で。すぐに誰かに心変わりしてしまう。昨日の相手は今日の相手とは別の人。そんなことはいつものこと。
 今度もそうだった。そうだとわかる。わかっているからこそ移り気なことそのことは怒りに思わない。ただありのままに受け止めている。
 そのうえで悲しいというか心配になってくるのだった。その移り気のことを。その気遣う気持ちを歌に託した。

今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな
 
 九月のこの寒空も気にはならないけれどそれでも気になるあの人の移り気。昨日は昨日、今日は今日。まるで風に吹かれるすすきのよう。そんな移り気な人。
 その人に対する気持ちを歌に託して今日も待つことにした。果たして来るかどうかはわからないけれど。それでも待つことにしたのだった。長月のある日のことだった。


第二十一首   完


                  2008・12・19

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