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百人一首
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第十八首

               第十八首  藤原敏行朝臣
 想いは募りそれで胸が張り裂けそうになってしまった。
 起きていて想うことはあの人のことだけ。けれど。
 会えはしない。会えないことそのことさえもが苦しみになっていく。苦しみはさらに苦しみとなり彼の心をさらに責め苛んでいっている。
 その苦しみを抑えられず。気が狂わんばかりになってしまっている。
 床に入っても想うのはあの人のことで。せめてそこで思うのは。
「会いたい」
 やはりこのことだった。だがこれは起きている時とはまた違っていた。
 夢の中でも、せめてあの人に会いたい。
 こう思うのだった。せめて夢の中だけでもあの人に会いたい。この片想いを夢の中だけでも晴らしたい。そう思うのだ。起きている間は決して晴らすことはできないものになってしまっているがせめてと思い。
 人目がありどうしても会えないけれど夢の中ならと。そう思いつつ眠りに入ろうとする中で思い。つい床において詠うのだった。誰もいないが今はそのことこそが彼にとって最も救いになることであった。

住之江の 岸に寄る波 寄るさへや 夢のかよひ路 人目よくらむ

「せめて。夢の中だけでも」
 儚い想いを胸に抱きつつ眠りに入っていく。そこで出会えるかどうかはわからないのだけれど。愛さずにいられぬこの想いを。己の中に。


第十八首   完


                 2008・12・16

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