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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十六話 シミュレーションと実戦
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で勝敗ばかり重視すると戦闘と戦争の区別もつかない戦術馬鹿を生み出すことになる。それがどれだけ危険なことか、分かるだろう、ナイトハルト」

「もちろん分かっています。それに戦闘と戦争の区別のつく宇宙艦隊司令長官を上官に持つことが出来て幸運だという事も分かっていますよ」
「卿は口が上手くなった。昔はもっと素直だったのに、悪い大人には成りたくないな」

何処と無く拗ねた様な口調だった。司令長官とミュラー提督の親密さが分かるような会話だ。会議室の中に笑いが溢れ、それを機に検討会が始まった。中央のスクリーンに先程行なわれた戦術シミュレーションが再現される。

味方の部隊は本隊が八千隻、中央に布陣している。クルーゼンシュテルン少将の部隊は四千隻で右翼に配置されている。残りの三千隻、クナップシュタイン少将、グリルパルツァー少将、トゥルナイゼン少将は左翼だ。

ミュラー艦隊が全面的に攻勢に出てくる。こちらは少しずつ艦隊を後退させつつV字陣形を作ろうとした。しかしV字陣形が思うように作れない。右翼が押されているため、中央と右翼が後退し左翼が敵の側面を突くような形になっていく。

V字陣形は作れない。止むを得ないと判断して左翼の部隊を敵の後背に回そうとする。上手くいけば敵を前後から攻撃できる。たとえ上手くいかなくても敵は多少慌てるはずだ、敵の攻勢を一時的には抑えることが出来るだろう。そう思った。

左翼の部隊が前進する。しかし直ぐに前進が止まる。敵の右翼がこちらの前進する左翼の先頭部分を押さえている。一方で敵の本隊と左翼が攻勢を強めてくる。味方の左翼は前進しようとし、本隊と右翼は後退する。

艦隊が分断されそうになる。慌てて左翼を後退させ連携を保とうとする。しかし後退した事で今度は敵の右翼が全面的に反攻を開始する。左翼が崩れかかる。味方の本隊は前面の敵の攻撃が厳しく援護できない。勝敗はついた……。

酷い結果だ。何の良い所も無く負けた。会議室の中は沈黙している。皆どう批評していいのか分からないのだろう。それに司令長官の反応を気にしているのかもしれない。司令長官もここまで酷いとは思っていなかったに違いない。怒るだろう、余りにも不甲斐無い結果だ。俺は叱責されるのを覚悟した。

「基本的な考え方は間違っていないでしょう」
思いがけない司令長官の言葉だった。思わず隣に座った司令長官の顔をまじまじと見てしまう。怒っている様子は無い。本気でそう思っているのだろうか。隣に座っているクルーゼンシュテルン少将の顔を見た。彼も眼を白黒させている。


「あの時点では左翼を敵の後背に回そうとするのは妥当な判断だと思います。ただミュラー提督のほうが一枚上手だというだけです。それほど悲観する事ではないでしょう」

どう考えれば良いのだろう。クレメンツ提督
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