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百人一首
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第十一首

                   第十一首  小野篁
 唐に行くのを断りその罰として流されることになり。今彼は見送りの人達を前にして船に乗ろうとする。その手にはあるものがあった。
「それは」
「小袖です」
 問われてこう答えた。
「これを持って行きます。あの方のものを」
「そうですか。それでですか」
「はい」 
 悲しみに頭を垂れつつ答えた。
「あの方はもうおられませんが。それでも」
「わかりました。それではどうぞ」
「そしてです。あの方にお伝え下さい」
 今度は寂しさに身体を責められつつ言うのだった。
「貴女の心を抱いて私は海を渡ったと」
「左様ですか」
「はい。そして」
 さらに言うのだった。彼の言葉は悲しみに覆われ出すのも辛かったがそれでも出て来る。言葉はやがて歌となりこう詠ったのだった。

わたの原 八十島かけて 濃ぎ出ぬと 人には告げよ 海人のつり舟

 悲しみの心のままに詠った。詠い終えた彼は海に顔を向ける。海は静かであるが暗く沈んだものであった。まるで彼の今の心をそのまま表わしているかのように。
「そしてこの歌も」
「あの方にですね」
「贈らせて頂きます」
 その沈んだ顔で述べたのだった。
「そのうえで今。向かいます」
「御元気で」
「また。御会いしましょう」
 最後にこう告げて舟に乗り海を渡る。悲しみをそのままに流される彼はもう振り向かなかった。胸に今は亡き想い人の心を抱いて。今は流れていくのであった。


第十一首   完


                   2008・12・9

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