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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十五話 ヴァレンシュタイン艦隊の憂鬱
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「副司令長官が相手なのです。負けても恥ではありませんよ」
穏やかな表情だ。本気でそう思っているのだろうか? だとすると知らないのだろう、昨日のシミュレーションは酷かった。全く良い所が無く負けたのだ。

「ですが、シミュレーションの勝率は……」
ワルトハイム参謀長が語尾を濁した。戦術シミュレーションでの勝率も決して良くない、三十パーセント程度だ。他の艦隊が五十パーセント前後、ラインハルト様にいたっては未だ負けがない。

その事を考えればヴァレンシュタイン艦隊の勝率は極端に低いといって良い。司令部の人間達が何処かおどおどしているのもそれを気にしての事だ。

「どの程度でしたか?」
「……三十パーセントです」
ワルトハイム参謀長が顔を伏せ気味にして答えた。周りも似たような態度だ。叱責が飛ぶのを覚悟しているのだろう。

「三十パーセントですか。悪い数字ではないと思いますが」
「……」
司令長官の言葉は思いがけないものだった。予想外の展開に皆顔を見合わせ、何処となく困惑した表情を見せている。

「宇宙艦隊の各司令官は帝国でも一線級の指揮官達です。彼らを相手に勝率三十パーセントは決して低い数字ではありません。卑下する必要はないでしょう」
「はあ」

司令長官の言葉にワルトハイム参謀長は困ったような声を出した。どう答えていいか分からないのかもしれない。確かに数字そのものは低いが今の宇宙艦隊の司令官達を相手に勝率三十パーセントというのは悪い数字だとは言えないかもしれない。司令長官の言葉には一理有る。

「シミュレーションなのです。勝敗に拘る必要は有りません。それよりも部隊の展開、連携等を各自良く確認してください。シミュレーションで想定し、訓練で習得する。そして実戦で戸惑うことなく実行できるように。いいですね」
「はっ」

全員が頷く。何処となく部屋の空気が明るくなったようだ。皆叱られずに済んだのでほっとしたのだろう。以前から思っていたのだが司令長官は本人が戦略家、政略家であるだけに余り戦術には重きを置かないようだ。

「今日はミュラー提督が相手でしたね」
「はい」
「頑張ってください。相手はしぶといですよ、根負けしないように」

司令長官の言葉にようやく笑いが起きた。そんなときだった、トゥルナイゼン少将が司令長官に話しかけた。
「閣下、如何でしょう、今日のシミュレーションは閣下が指揮を取られては」

面白いと思った。司令長官が戦術家として無能だとは思わない。しかしミュラー提督も極めて有能な戦術家だ。司令長官の力量の一端を知ることが出来るかもしれない。そう思ったが司令長官はあっさりと断った。戦術シミュレーションは余り好きではない、そう言って。


帝国暦 487年11月 1日   オーディン 宇宙艦隊
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