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約1つのラベルと心臓
第n+2話 灰色のコウモリはトレーニングを欠かさない
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 二会手(にえで) 夏雄(なつお)が目を覚ましてすぐに思ったのが、寒くないということだった。
 辺りは一面真っ白で、まるで雪山にでも来たようだったが、もう一度見返すとペンキで真っ白になっているだけだった。
 商店街のようなものだろうか。屋台が立ち並び、その間を人が往来している。
 夏雄は取り敢えず通行の邪魔にならないように急いで立ち上がると、人混みから外れながら状況確認を試みた。
 真っ白の屋台、真っ白な生クリームの乗った真っ白な炭酸飲料、真っ白の髪の真っ白の服の人。どうやらここでは白色が重要視されているらしい。
「……あー、だから」
 夏雄がこっそり呟いたのは、起き上がって人混みから外れるまでに、多くの人に二度見されたからだ。
「そうよ。夏雄君も早く真っ白な格好になった方がいいわ」
 その聞き慣れた声に振り返ると、美都子が真っ白になって立っていた。
 大きな真っ白の麦わら帽子を顔いっぱいに被り、ワンピースというのか真っ白の服1枚で上から下を覆っていた。まるで別荘に暮らしている令嬢か何かのようだ。実際に金持ちなのかもしれないが。
「白?なんなきゃいけないか?」
 夏雄は別に髪や服の色に拘りは無かった。
「うーん、まぁ目立つけど必須ってわけでもないわね。白色ブームも一過性のようだし」
「ブームねぇ」
「ちなみに、前のブームは黒だったらしいわよ」
「へー」
「おー、強気ねぇ」
 興味無く返した夏雄に美都子はニヤリと笑いかけた。
「何がだ?」
「今のあなたは、前のブームに固執してる可哀想な人に見えちゃうってことよ?」
「……な、成る程な」
 夏雄は少したじろいだ。
「とはいえ人の噂も茶摘みじゃないかっていうぐらいだし、一時の変わり者なんて酒とSNSの肴になるぐらいでしかないわよ」
「十分嫌だな」
「夏雄君って、変なとこで世間を気にしない割に変なとこで気にするわね」
「……そうだな」
 夏雄はいやいや首肯した。
「……ってか、お前は白いんだな。全身」
 夏雄の勝手なイメージだが、美都子は世間の流れなんて気にせず自分の好きな物を選んで生きていると思っていた。
「そりゃあまぁね」
 美都子はその場で一回転した。よく見ると首元に白いスカーフだかマフラーだかを巻いている。
「踊る憲法見る民法。合わせて奔放三毛の法とはよく言ったものね」
「よく言ってねぇぞ」
「とにかく、馬鹿騒ぎをするのは楽しいってことよ。何かを考えるってことは何かを考えないってことも考えるってことなのよ」
「んーよく分かんねぇ」
 いつものことだが。
「そうそれ」
 美都子は夏雄を指差して、
「そういうことよ」
 褒めるようににっこりと笑った。

「これは昼屋台ね。何かお昼ごはん買いたいけど、夏雄君も何か食べる?」
 夏雄は
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