暁 〜小説投稿サイト〜
約1つのラベルと心臓
第n+0話 あなたの足を少し埋める
[1/2]

[1] 最後 [2]次話
 今日起きて初めて見たものは、まるで地球みたいな真っ青な空だった。
 二会手(にえで) 夏雄(なつお)はゆっくりと半身を起こしながら、今自分がどういう所にいるのかをざっくりと目で調べた。
 夏雄は変わった体質をしていた。目が覚めると、異世界にいることがしばしば起こるのだ。
 12歳で起きたそれは年を経る毎に頻度を増していき、最近では、3日に1度は異世界に飛ぶようになった。
 夏雄はベッドの感触を尻で確かめながら空を見た。
 それは空という名前ではないかもしれないが、何度も異世界に旅立つ夏雄は、正しい単語の名前を気にしないようになっていった。遅くとも1日程度で日本に帰ってくることもそれに拍車をかける。要は、めんどくさいのだ。
「ガラス……?」
 空を注視すると微妙にそれはそのまま空ではないように見える。透明な何かがこの部屋の天井になっているようだ。
「この世界の太陽は、物の色彩を鮮やかにして美肌にも効果があるそうよ」 
「あーー……」
 突然こっそり部屋に入ってきた夏雄と同い年ぐらいの少女は、何度も見たことのある日本人だった。
 取り敢えず、朝起きて人の顔を見たら言うことがある。夏雄はまずそれを優先した。
「おはよう」
「おはよう。今日の朝食はラガゴッチュゴネズザよ」
「それ食いもんか?」
「あなたは異世界健啖探検記の締め切り近いでしょ。ラガゴッチュ夏雄君」
「誰だよ」
「そう?ラガゴッチュって、打首にされた首って意味なんだけど?」
「俺関係ねぇじゃねぇか」
「でも夏雄君、首から上と首から下と首しか無いでしょ?」
「それ以外何があんだよ」
 彼女の名前は侍乃公他(じおれた) 美都子(みつこ)。端的に言うなら、夏雄は美都子のことをあまり知らなかった。
 日本では全く会ったことが無いが、夏雄が異世界に旅立つと、必ず彼女が近くにいるのだ。
 後知っていることは、取るに足らない冗談が好きだということだ。夏雄は探検記など出す気は無い。
 木材系に見える階段を美都子と2人でトントンと降りると、老夫婦がこちらを見て顔をほころばせた。
「おはようございます」
「おはようございます」
 美都子につられた、先制での挨拶。
「ああああああああらららららららら、起きたのねぇ起きてよかったわねぇ」
 老婆が楽しそうにこちらへ手招きした。夏雄は異世界によく行くので、親が流行りにつられて買ったお下がりの万能翻訳機を常備している。
「あなたこっち来た時、横断歩道か線路か何かみたいに倒れてたのよ」
 美都子が小声で補足した。
「よく分かんねぇよ」
 小声で返しつつ、改めて老夫婦を見やる。
 肌の基調は肌色。気持ち薄め。歳のせいか黄土色めいたシミが僅かに見られる。髪の色は絵の具のような深緑。年齢は夏雄の祖父母と大差無いだろう。

[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ