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俺の四畳半が最近安らげない件
予兆の天使〜小さいおじさんシリーズ11
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始めた。白頭巾はがくりと膝をついて肩を落とした。…内心、こいつが一番怯えていたのではないか。
「…何を喜んでいるのです…絶対、危なかったですよあれ」
豪勢が鼻で笑う。
「なんでだ。天帝の使いだろあれは。基本寄り道とか気まぐれとかはありえない」
「めっちゃ畳、凝視していたじゃないですか」
強張っていた体を弛緩させるようにぐんにゃりとクッションにもたれかかり、白頭巾は呟いた。
「加えてこの紙の多さ。乱雑さ。私は初めてこの地を訪れた時に思いましたよ。あ、これは火計だな、と」
「やはりか。俺も常々、そう思っていた。『ついで』的な放火を誘発しそうな風情の地だな」
怖ぇ!!この火計ジャンキー共は俺の部屋をそんな目で見ていたのか!?


「さっきの放火娘もそうだが、あの時代の『凶兆』意味わからなすぎて嫌いだわ」
俺が取り分けたチキンラーメンをすすりながら、豪勢が呟いた。…体の芯に残った緊張がほぐれるようだ。深夜のチキンラーメン、マジ旨い。
「卿もか。俺も嫌いだ…董卓の車に『口』って書いて逃げる道士とか」
「二本足の虎とか」
「頭が二つある子供…というのもありましたね…」
「エグいわー…奇形の子供とかエグいわー」
厭な事が起こる予兆として出没する、何だかざわっとするもの…確かに中国の昔話にはそんなのが多い。
「あれ一体、本人はどういう心持ちで出てくるのだろうな…」
チキンラーメンの汁を匙ですくいつつ、端正が美少女の消えた辺りを眺めた。
「聞いてみたらどうだ。まだその辺に居るんだろうよ」
「御免蒙る」
「どのみち、近いうちに、この辺りで火の手が挙がることは間違いありません…この兵糧、あの時代に欲しかったですね…」
「分かる。すげぇ分かる。これがあったら魏はあと20年は戦えた」
覇道を競った猛将たちが背中を丸めてチキンラーメン啜っている姿を想像すると、なんか居たたまれない気がするが、まぁ今とは価値観とか状況とか色々違うのだろう。食い物の話で盛り上がり始めたということは、彼らもすっかり落ち着いたということか。俺は布団を敷いて寝る準備に入った。


隣町のアパートで全焼騒ぎが起こったのは、明け方のことだった。


遠くの方に雲を照らすような業火があがるのを呆然と眺めていた俺の隣で、白頭巾は呟いた。
「今も昔も、世間は『予兆』で溢れていますよ」
くっくっく…と、小さく笑い、白頭巾は踵を返した。
「人が、感じ取れなくなった。それだけのことです」


―――お前らも、予兆なのか?




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