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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
第四十六話その2 沸点の限界です。
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 帝都オーディン某所――。
 貧民街にほど近い場所にある3階建ての邸宅は貴族の持ち家というよりは小ブルジョアの邸宅と言った方がしっくりくる規模であった。ここがブラウンシュヴァイク公爵の持ち家の一つであることはあまり知られていない。

 軍務省憲兵局長であるハーラルト・ベルンシュタイン中将はひっそりとたたずむその邸宅に吸い込まれるようにして入っていった。埃っぽいロビーはしばらく誰も入っていない室内にこもる、あの独特のかび臭いにおいが漂っている。正面には2階に上がる幅広い階段が分厚い絨毯に守られて踊り場まで伸び、次いで左右に分かれているが、その上にも埃が積もっていた。階段の踊り場に仕掛けられた壁時計は1時32分を指して止まっている。ここでは時間というものが永久に止まっているかのようだった。ベルンシュタイン中将は時計を見た。時刻は1時58分、指定の時間は2時であるから、ほぼ時間通りというわけだ。
 中に入った彼はしばらく外の大気の匂いを振り落とそうというかのようにしきりに上着の袖をはたいていたが、やがて背を伸ばすと、ロビー左にある扉をノックした。


 コンココンコンという不規則な音が虚ろに響く。


 ベルンシュタイン中将はしばらく佇んでいたが、やがてかすかなキィという音を聞くと、ノブを回して部屋の中に入っていった。
 中にいたのは、数人の貴族、そして帝国軍少将の軍服を着た人物であった。その中の中心にいる人物は、やや痩せた頬に陰のある目つきをしている。もしアレーナがこの貴族を見たら、真っ先に「ヘルメッツの一味!!フレーゲルじゃん!!」と言っていただろう。

「このようなところに呼ぶとは、あまり密談には向かない場所ではありませんか?」

 ベルンシュタイン中将が少しだけ肩をすくめながら言うと、フレーゲル男爵は冷たい皮肉満載の口ぶりで、

「ここは叔父上の邸宅だ。余人は入ってはこれない。なまじ市街の居酒屋やカフェで密談をせよと言うのか?平民共に紛れて」
「いいえ、そのようなことは申しません」
「それよりもフレーゲル男爵、時間があまりない。相談は速やかに行うべきではないか?」

 ゴッドホルン子爵が促す。子爵家の当主であるからフレーゲル男爵よりも爵位は上であるが、ブラウンシュヴァイク公の係累であるフレーゲル男爵に対して遠慮一つしないことにフレーゲルとしては内心面白かろうはずがなかった。だが、表向きはうなずきを示して、

「承知した。それでは始めようか。立ったままでよかろう。無理に掛けろとは言わんが」

 フレーゲルが身振りをしめすと、一同は埃の積もったソファを軽蔑の眼で見やった。

「まるであの女のようだ」

 シュライヤー少将が吐き捨てるように言う。

「あの女とは、どの女のことを指すのですかな、少将」

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