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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十八話 才気ではなく……
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ます」

ヴァレンシュタイン元帥の目には嫌悪も哀れみも無かった。いたわる様な、いとおしむ様な柔らかい眼だ。ヴァレンシュタイン元帥は私を助けようとしている。どうしようもない愚かな失敗をした私を。

「分かりました。マリーンドルフ家は元帥閣下と共に戦わせていただきます。閣下のご厚意に感謝します」
「期待していますよ、フロイライン」

ヴァレンシュタイン元帥は柔らかく微笑んでいる。メックリンガー提督とフィッツシモンズ中佐は表情を見せない。この二人は、いや元帥も私を信用しているわけではない。信用はこれから築かなければならない。示すべきは才気ではなく覚悟……。

応接室のドアがノックされ、女性下士官が部屋に入って来た。
「御用談中申し訳ありません。元帥閣下、只今宮中より至急参内せよと連絡が有りました。陛下の御命令だそうです」

一瞬にして応接室の中が緊張に包まれた。皇帝が元帥に至急の参内を命じた。一体何が有ったのだろう。

「分かりました。フロイライン、私はこれから宮中に向かいます。いつか今日の日を笑って話せるようになるといいと思います、では」
そう言うと元帥はしなやかな動作で立ち上がった。

元帥はマントを少し気にしながらドアに向かう。マントを着けていても華奢な後姿が分かる。メックリンガー提督とフィッツシモンズ中佐が後に続いた。私は少し後から出たほうがいいだろう。部屋を出る間際、元帥は振り返り私を見た。

「フロイライン、貴女の過ちはもう一つ有りました。私に忠誠は無用です。私は皇帝陛下ではありません。貴族でもない、平民です。貴女の友人、上官にはなれても主君にはなれません。良い友人になれるといいですね」

悪戯っぽい表情で言うと、あっけに取られている私をそのままに体を反転させ部屋を出て行った。誰も居なくなった応接室で私は思わず苦笑した。敵わない、改めてそう思う。でも少しも残念ではなかった。



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