暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 魔女のオペレッタ  2024/08 
最後の物語:軋む在り方
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「うぅ………人、いっぱい………」
「あらあら〜、やっぱり苦手でしたかぁ?」


 五十七層主街区、観光客や拠点を構えるプレイヤーでごった返す街路での一幕。
 人混みに怯え、ピニオラのローブに隠れるみことの頭をそっと撫でながら、二人は目的地を目指した。

 その道中でさえ、ピニオラはみことを観察する。
 着目する点は、しかしこれまでの《主人公》とは別の部分。
 仕草や振る舞い、まだ幼い少女の何気ない姿を見定め、理解してはピニオラは少しづつ適応させていく。
 歩幅を合わせ、ローブの裾を握る手をそっと握り、休憩を挟んでは些細な話題で会話を設ける。
 観察と接触はピニオラの創作活動における重要なファクターだ。あくまで、その延長線上でみことに接しているに過ぎない。それでも、どうしてか感じたことの無いような、何とも言えない感情に戸惑いつつも、結局は棚上げにすることにした。すぐに解けない疑問に難儀してもつまらない。ならば、目下の問題にのみ意識を向けていた方が建設的だとピニオラは判断する。当面は創作活動に興が乗らない以上は、この気分転換を続けるのも悪くはない。気分転換というには、手にした玩具は上等なものであるが故に尚のこと意欲に熱が湧かないのも事実であったが。


「お待たせしましたぁ。ここが、みことさんをお連れしたかった場所ですよ〜」


 大通りに面していながら、ひっそりとした佇まい。ツタに覆われて影に飲まれがちな外観にありながら、店内は採光に余念が無く昼間の日光を存分に取り入れて明るい。
 その内部に売り物として並んでいるのは衣類。一般のプレイヤーからすれば《非金属防具》と呼ばれ、攻略やその日の糧を得る為にフィールドに赴くなどそれなりの稼ぎのあるプレイヤーには然して目を向けられない《中途半端な嗜好品》とされる、いわゆる《安物の衣類》を扱うNPCショップ。それも女性用のみを中心に取り扱うため、男性プレイヤーに比重の傾くSAOでは有って無いようなもの。知名度も低いので客はおらず、人目を厭うピニオラにも優しい条件という訳だ。
 ともあれ、最優先事項はみことの装備の更新、もとい着替えの入手にある。
 衣類の新調を最優先に据えての行動であったが、どうやら精神的にも好ましい効果はあったらしい。どこか弱々しいみことが、ようやく周囲の環境に恐怖や警戒心ではなく興味を示すように見受けられた様子に、自身の心情に戸惑いながらも安堵する。

 安堵。込み上げる愉悦に浸っているだけでも幸せだった自分には見出せなかった感情を、この幼い少女は容易く見せてくれる。知らない感情を教えてくれる。これほどに尽きぬ興味を生きながらにして自分に抱かせる彼女は、やはり特別なのだろうと思えてしまう。


「お洋服、いっぱい………」
「気に入ったものがあったら言っ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ