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雷切
第五章

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「その様にな、だからな」
「まだですか」
「雷は切れぬ」
「しかしです」
 おさよは難しい顔で夫に言った。
「気は刀を振ってです」
「出すな」
「それが出来ることはです」
「剣を極めた者か」
「はい、私も父上からそう聞いていますが」
 彼女の実家の父にだ、岩田の家と同じ旗本の家だ。
「それ以上はです」
「ないか」
「最早極めたので」
「いや、どうもだ」
「まだ上がありますか」
「気を剣から出せる様になってもだ」
 その気で石や気を断ち切れる様になってもというのだ。
「まだ先がある、そのことがわかってきた」
「では」
「まだ修行を続ける」
 己の後ろに立って控えている妻に言った。
「そして何時かだ」
「剣を用いずとも」
「雷を切ってみせる」
 こう言ってだ、今は屋敷の中に戻った。その見事なまでに両断されて庭に転がる石灯籠から視線を外して。
 彼の修行は子が出来てからも続いた、隠居している両親も高齢になり師匠の草薙もかなり衰えていた。そして彼も歳を経ていたが。
 彼は若い頃それこそ十代の頃と同じく激しい修行を続けていてだ。そして。
 ある日だ。空が急に曇ってだ。 
 雷鳴が響いた時にだ、己の屋敷で妻に言った。
「時が来たやもな」
「では」
「これより切って来る」 
 こう妻に告げたのだった。
「庭に出てな」
「雷をですか」
「見るか」
 しかとした声でだ、岩田はおさよに問うた。
「わしが雷を切る時を」
「手を動かさずに」
「それを見るか」
「はい」
 すぐにだ、おさよは夫に答えた。それも確かな顔で。
「是非共」
「ではな、これより庭に出るぞ」
「わかりました」
「父上と母上がおられず唐十郎もいないのが残念だが」
 二人の間の子である。
「三人で湯治に行っているのでは仕方がない」
「甲府まで」
「行かせたのはわしだしな、お二人も孫には随分甘い」
 だから彼の子も湯治に連れて行ったのだ。
「おぶってまでしてな」
「そうですね、では」
「先生もお呼びしたいが」
「ご高齢なので」
「無理をかけさせたくない、だからな」
「私にですね」
「立ち会ってもらう、ではな」
 こう言ってだ、そしてだった。
 岩田は妻を連れてだ、そのうえで。
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