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おぢばにおかえり
第三十一話 研修先でもその八

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「花魁さんになるのは」
「それはね」
 何て言われても。やっぱり抵抗があるのは事実です。
「だから。私は」
「だったら僕がなりますよ」
 話が元に戻りました。
「それでいいですよね」
「私は別にいいけれど」
 それでもです。
「阿波野君がなるなんて」
「さて、何になろうかな」
 私の話を聞かずにとっくに女形になることばかり考えだしていました。
「揚巻かな、やっぱり」
「写真とか撮るのよね」
「撮らなくてどうするんですか」
 やっぱりこう言いました。
「折角なるのに」
「そう。撮るの」
「はい」
 話がどんどん変な方向にいっちゃっています。もう私ではどうすることもできない程に。
「ちょっと時間はかかりますけれどいいですよね」
「時間、かかるの?」
「はい、ちょっとですけれど」
「そうなの」
「花魁さんになるんですから」
 話を聞いていてあの格好を想像しました。確かにかなりご大層というか物々しい格好です。相当以上に動きにくい格好なのはわかります。夏なんかかなり暑そうです。
「ですからちょっとだけですけれど」
「時間、かかるの」
「ちょっとですよ」
 戸惑う私にこう言うのでした。
「ちょっとだけですから。何でしたらその間は」
「その間は?」
「先輩も何かになられたらどうですか?」
 また変わった提案をしてきました。
「よかったら」
「何かにって」
「花魁さんじゃなくてもですね」
「ええ」
「町娘とか。どうですか?」
「町娘!?」
 それを聞いて思ったのはよく時代劇に出て来る遠山の金さんとかに愛想よく話していたり病気のおとっつあんと長屋に一緒にいたりするああした娘です。
「ええ。それだとどうですか?」
「どうかしら」
「きっと似合うと思いますよ」
 また物凄くにこにことして私に言ってきました。
「どうですか?僕が花魁さんになってる間に先輩はそれに」
「別にいいわ」
 とりあえず今はそのつもりにはなりませんでした。
「私はね」
「そうですか」
「ええ。私は待ってるから」
 こう阿波野君に言いました。
「だから阿波野君はその間にね」
「わかりました。じゃあ花魁さんになってきますね」
「ええ。けれどどうしてなの?」
 少し目を顰めさせて阿波野君を見上げて問いました。
「また花魁さんになろうなんて」
「先輩が絶対に嫌だっていいますから」
「けれど自分がなることはないじゃない」
 本当にそう思います。どういうことなんでしょうか。
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