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手古舞
6部分:第六章
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第六章

 一回転して梯子の上に着地してみせる。一歩間違えれば死ぬ芸もだ。
 見せてだ。さらにだ。
 梯子が複数出るとその梯子と梯子の間を行き来してみせる。これには江戸っ子達も驚いた。
「凄いな、こりゃまた」
「下手こいたら死ぬのにな」
「それでもやるか?」
「身のこなしも凄いけれどな」
「えらい肝だな」
 その肝っ玉もだ。江戸っ子達を驚かせた。さらにだ。
 彼は再び逆立ちしてまた梯子と梯子を行き来してみせてだ。最後は。
 後ろに宙返りして梯子の一つを両手で掴んでだ。そこから。
 一気に立ち上がり脚を閉じてすくっと立ちだ。腕を組んでみせる。そこまで見てだ。
 誰もがだ。拍手喝采だった。
「おいおい、すげえじゃねえか!」
「最高だよ!」
「こんなのはじめて見たぜ!」
「凄過ぎるぜ!」
 お捻りまで出る始末だった。彼の芸はまさに最高の見せ場になった。
 それが終わってからだ。彼は。
 美代吉のところに行きだ。こう問うたのだった。美代吉は今も手古舞の格好だ。
「どうだった?」
「いいね。服だけじゃなくてね」
「芸もだよな」
「凄かったよ。あんなの並だとできないね」
「あんなのできるのは他には児雷也だけだろうな」
 歌舞伎の忍だ。それ位だというのだ。
「それか天竺徳平衛かな」
「そうだね。そこまでいってるね」
 美代吉も言う。そしてだ。
 さらにだ。こうも言うのだった。
「肝っ玉に心根も見せてもらったよ」
「肝っ玉はわかるけれどな」
 新助にしろそれも見せるつもりでした。だからだ。
 こちらはわかった。しかしだ。
 心根という言葉にはだ。眉を顰めさせて美代吉に問い返した。
「最後がわからねえな」
「ああ、それだね」
「俺はそれは見せたつもりはないんだけれどな」
「これが一番大事だけれどね」
「だよな。どんなに顔がよくて腕があってもな」
 それでもだというのだ。彼も。
「心根が悪い奴なんてどうしようもないさ」
「そうだよね。人間まずは心根だよ」
「それがいいっていうんだな、俺は」
「それをもう見せてもらったしね」
 今のだ。美代吉の言葉には。
 新助は首を捻ってだ。こう問い返した。
「俺それ見せたか?」
「見せたじゃない」
「そうか?それ何時だ?」
「ほら、昨日ね」
 その昨日だ。彼が何をしたかと話すのだった。
「火事で見せることは駄目だって言ったじゃないかい」
「ああ、あれな」
「下種はそこで見せるって言うんだよ」 
 そうした人間はそうするというのだ。世の中何時でも何処でもそうした人の不幸や危機に自分を見せようとする輩もいるのである。
 だが新助はそれはしなかった。それを見てだ。
 美代吉はだ。こう言ったのだ。
「そこで見せてもらったんだよ」

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