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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五話 掌
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…」

静まり返った黒真珠の間にブルクハウゼンとマクシミリアンの声が流れる。ブルクハウゼンの顔面は蒼白だ。シュターデンも青くなっている。

「ブルクハウゼン侯、陛下の御前で嘘はいかんな、随分と親しいようではないか」
「……リヒテンラーデ侯、わ、私は」
「ローエングラム伯、他にもマクシミリアンの友人が居よう、皆に紹介してはどうじゃ」

皮肉そうな口調でリヒテンラーデ侯が言葉を続ける。顔には酷薄と言っていい笑みが浮かんでいた。俺はジンデフィンゲン伯爵、クロッペンブルク子爵 ハーフェルベルク男爵の名を呼んだ。

逃げようとしたが予め配備していた憲兵隊に囚われ、突き出された。
「どういうことだ、何故我々が……」
「まだ分らんか、困ったものだ。カストロプは落ちた、マクシミリアンは命惜しさに卿らを売った。そういうことじゃ」

喘ぐ様に言うブルクハウゼンに呆れたような表情でリヒテンラーデ侯が答えた。黒真珠の間がどよめく。彼方此方で顔を寄せ合って話す姿がある。

「ば、馬鹿な、そんなことが、首飾りは……」
「何の役にも立たん。ヴァレンシュタインは一人の犠牲者も出さずにあれを落としたわ」

リヒテンラーデ侯の言葉に今度は黒真珠の間が凍りついた。そんな様子が可笑しかったのか侯は笑いながら言葉を続ける。
「イゼルローンでさえ落ちた。難攻は有っても不落は無い、ヴァレンシュタインはそう言っておったの」

「ブルクハウゼン、その方らはヴァレンシュタインの掌で踊っていたのじゃ。そんな顔をするな。予とて病気の真似事をさせられたのじゃ、全く人使いの荒い男よ。予は寝ていただけだから良いがの、その方らは流石に踊り疲れたであろう、ゆっくりと休むが良い。これからは踊る事も踊らされる事もないからの」

皇帝はそう言うと可笑しくて堪らぬというように笑い始めた。リヒテンラーデ侯、エーレンベルク、シュタインホフの両元帥が皇帝を呆れたような表情で見ていたが、やがて彼らも顔を見合わせ少しずつ笑い始める。

皇帝はそんな臣下を見てさらに上機嫌に笑う。ついには四人が哄笑と言っていい程の笑い声を上げた。凍りついた黒真珠の間で四人の笑い声だけが流れていく……。







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