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トスカ
20部分:第三幕その六
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第三幕その六

スカルピア   「ではお話しましょう。あの扇ですが」
トスカ      「私の焼き餅でした」
 俯いて言う。
トスカ      「馬鹿げた嫉妬でした。それだけです」
スカルピア   「嫉妬ですか」
トスカ      「ええ、ただそれだけです」
スカルピア   「ではこちらに侯爵夫人はおられなかったのですね?」
トスカ      「あの方だけです」
スカルピア   「そうですか、子爵だけですか」
 納得しないような声を出す。トスカは俯いて彼の顔を見られない。
スカルピア   「(念を押すように)間違いありませんね」
トスカ      「嫉妬深い者は髪の毛一本見逃しません。間違いありませんでした」
スカルピア   「そうですか。しかし」
トスカ      「しかし?」
 その言葉に不安になり顔をあげる。
トスカ      「何か」
スカルピア   「妙に怯えておられる。まるで自分が誰かを裏切ってしまうのではないかと恐れているようです」
トスカ      「そんなことはありません。侯爵夫人はおられませんでしたし」
スカルピア   「怯えずに。侯爵夫人がおられないという事実は確かにわかりました」
トスカ      「でしたら」
スカルピア   「しかし兄君はどうか」
トスカ      「えっ!?」
 その言葉にドキリ、とする。スカルピアはそれを見逃さない。
スカルピア   「侯爵と子爵は幼馴染、しかも同じジャコビーニですし充分考えられますな」
トスカ      「御二人はここにはおられませんでした」
スカルピア   「本当でしょうか」
トスカ      「あの方も言った筈です、ですから」
スカルピア   「いいでしょう、それでは」
 スポレッタに顔を向けて声をかける。それまで部屋の隅で小さくなっていた彼はスカルピアの顔がこちらに向けられたのを見てビクリと顔をあげる。
スカルピア   「スキャルオーネを呼んでくれ」
スポレッタ   「は、はい」
 それに頷いて一旦部屋を後にする。そうしてスキャルオーネと共に戻ってきた。スカルピアは彼に顔を向けて問う。
スカルピア   「子爵は何か仰ったか?」
スキャルオーネ「(首を横に振って)いえ、何も」
スカルピア   「そうか、やはりな」
 その言葉を聞いて頷く。悪魔的な笑みを同時に浮かべる。
スカルピア   「では続けよ、いいな」
スキャルオーネ「わかりました」
 あえてトスカに聞かせるように大きな声で言う。スキャルオーネが敬礼して部屋を後にするとトスカは狼狽した声でスカルピアに問うてきた。
トスカ      「一体何を」
スカルピア   「(平然とした顔で)御聞きしているだけです」
トスカ      「御聞きしている!?」

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