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ご都合主義な盤上の中で
盤外戦はほどほどにしようよ

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最近、アキラ君の雰囲気が変わった。
どこか両家の坊ちゃんという雰囲気が抜けず、打つ後も強いが言い方をすればどこか上品、悪い言い方をすれば貪欲さが薄い碁だった。
緒方は芦沢と打つアキラの碁を見ながら、強い一手に対する貪欲さが感じられた。
今までなら打たない場所にも打ち、徹底的に相手を下そうと遠慮なく打ちまくっている。芦沢とアキラ君の実力は今の時点では拮抗している。3回に1回は芦沢が負けるが逆に言えば、芦沢のほうがアキラ君よりもやや今の時点では勝っていた。しかし、貪欲さを身に着けたアキラ君の碁は猛スピードで芦沢に迫っている。
一体何が彼を変えたのか、なんとなく聞いてもアキラ君は口ごもって黙秘を続けている。
気になったのなら調べる。と言うわけで、アキラ君に滅多打ちにされた芦沢に兄弟子権限で命じさせて、アキラ君を探らせた。
最近、ふらっと外に出て、しばらくすると帰ってくると母の明子さんの証言から、その行き先を調べて来いと言えば、芦沢は嫌がったが問答無用で行かせた。

結果、芦沢からのメールによると

『自然に他の家に入ってった後、かわいい女の子が入っていきましたよ!アキラに彼女!?』と届いた。
それに馬鹿かと毒づいた。友達の妹とか色々あるだろうと思ったが、やはりアキラ君は誰かと打っているなと確信する。
一体、アキラ君が打っているのか興味がわいたがそれ以上は調べなかった。
碁を打っている限りその正体はおのずと分かることだ。

ぱたんと携帯を折りたたむとパソコンの画面に目を向ける。
そこにはネット碁の盤面がリアルタイムで広がっていた。
目の前に広がる盤面は圧倒的に白有利だ。
黒の相手は見たこともないアカウント、もう一人、白をもつのは一年前から無敗と生きた伝説なりつつある『sai』というアカウントだった。

珍しいと緒方はその盤面を見て思う。
『sai』 がこの時間帯に打っているのは珍しい。
『sai』は基本的に常にログイン状態だが、日曜日はほとんど打たない。
しかし、今日は日曜だというのに打っている。
一体なぜだろうかと考えを巡らせるも答えは出ない。

『sai』この打ち手は恐ろしく強い。
そして、その正体は誰も知らない。
様々な仮説が当てられるもそれを裏付ける証拠は一つもない。

「sai 、お前は一体誰なんだ」

画面に向かって呟くもそれに対する答えはもちろんなかった。

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