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ご都合主義な盤上の中で
一局目はお前がいい

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塔矢アキラは目の前に座る少年を凝視した。
たった今、少年が碁盤に打った一手によって勝負は決まった。
進藤ヒカルと言った同い年の少年はその手のどこかたどたどしさとは対照的に一手一手に確かな実力があった。それは塔矢よりも確実に上回っていた。

初めて同年代の子供と打って負けたことに口惜しさと、どうしようもない興奮が沸き上がる。

『僕よりも強い相手が目の前に居る!』

それだけで自分の中で火が付いた。どうしようもないほどの勝利の渇望ともっと彼と打ちたいと思う強烈な衝動が駆け巡る。
しかし、今はこの一局を終わらせなければいけない。

「ありません」

悔しくて手をぎゅっと膝で握りしめる。塔矢の視線は盤上ではなくヒカルに向かっていた。
ヒカルは盤上からふっと目を放し「ありがとうございました」と頭を下げた。
ヒカルになんと言えばいいか一瞬迷ったが、出てきたのは再戦の質問だった。

「もう一局、打ってくれるか?」

ヒカルの反応を見逃したくなくて、かすかな不安が自分の瞳にやどる。
けれど、アキラにはヒカルも再戦を望むだろうと確信していた。
強い打ち手を望むのは棋士の本能だ。
きっとヒカルも打つ相手を求めていると思ったから。
しかし、ヒカルは軽く「今はもう打たねえ」とさらっと言った。

目を見開いて愕然とぽかっと開いた落とし穴に落とされた気分だったが。

「お前がもっと強くなったら、また打とうぜ」

ヒカルがニッと挑戦的に笑う。
その言葉の衝撃に息が止まり、闘志が沸き上がった。

「ああっ!!」

今は打たない。けれど、塔矢が強くなったらまた打とうと言う。
聞く人によっては傲慢ともとれる言葉も、ヒカルがいうとちょっとした悪戯のようで全く嫌じゃなかった。
彼に勝ちたい。
もっと強く、ヒカルこそ塔矢に何度でも打ってほしいと思うくらいに強く。
そして、勝ってやる!と目の前のヒカルに決意を籠めて同意した。

そして、ヒカルが時計を見て慌てて帰ったのを見送った後、塔矢もまた家へ帰った。

ご都合主義は回りだす。

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