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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
番外編1 彼女の笑顔
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 もったいない。
 ネージュは彼女と話した時、真っ先にそう思った。
 それは今も変わらず、伏し目がちに話す彼女を横目でチラチラと見ながら、内心で「もったいない」と呟く。
 夕日に紅く染まる肌。風でふわりふわりと靡く美しい髪。ほっそりとした顔の輪郭。すっと通った鼻筋。形の良い唇。
 女性をジロジロ見るなんてかなり失礼だけれど、しかしそうせずにはいられないほど、彼女は美しかった。
 ――――そう、美しい。
 可愛い、とは少し違う。
 幼さが色濃く残る顔に、不釣り合いなほど大人びた表情。オブラートに包みながらもハッキリとした言葉。一歩どころか何十歩も後ろに引いた態度を取りつつも、冷淡になりきれない彼女の優しさ。それらが、彼女のことを“可愛い”と形容させない。
 外見の幼さと、凛とした表情。毅然とした態度と、今にも溶けて消えてしまいそうな儚さ。あまりにアンバランスで、不安定で、脆い。まるで氷彫刻のようだ。少しの衝撃で欠けてしまう芸術品。短命で、すぐ消えてしまう。幻のように無くなってしまうのに、記憶に残る美しいもの。
 それが、ネージュの瞳に映る“キカ”という少女の姿だった。
「ちょっと、ネージュ。何急に黙ったのよ」
「あ、ごめん。ちょっと考え事」
「あなたって本当、いつもぼうっとしているわよね」
「あはは……」
 キカのことを考えていた、なんて言ったらどんな表情をするのだろう。少し意地悪をしてみたくなった。しかしこれで嫌われてしまったら、多分、落ち込むどころの話じゃない。
 
 彼女と出会ったのは一週間くらい前。道に迷い、どうしようかと思案していたところで、彼女――――キカの後ろ姿を見つけた。
 見つけた時、思わず、息を呑んだ。それほどの衝撃だった。鈍器で思い切り殴られたような、そんな激しい衝撃。
 煌々と光る草原にポツンと座り込むキカは、有名な芸術家が描いた一枚の絵のようだったのだ。
 しかし、非現実的な雰囲気を内包していた少女の影からは、今にもあの外周の向こうへ飛び込んで行ってしまいそうな、危うさを感じた。けれどそれに引き寄せられるように、吸い寄せられるように、ふらりと足は前へ傾いたのだった。
 そして、真後ろに来た瞬間、バッと振り返った彼女の瞳に、“美しい”を体現したかのような少女に、ネージュは文字通り射抜かれてしまった。
 濡羽色の髪。カモシカのような足に、白魚のような手。意志の強さを滲ませる柳眉に――――、彼女の全てに目を奪われた。
 そう、それを一言で簡潔に表すのならば、“一目惚れ”というやつだろう。
 それほどあっさりと、地面で口を開けた落とし穴に気付かずはまるように、ピッタリと合わさるのが当たり前のパズルのピースのように、ストンと心の奥まで落ちてきた。
 ああ、僕は、彼女のことがもっと知りたい――――、
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