22部分:雪の下浜松屋の場その七
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雪の下浜松屋の場その七
南郷「ほらよ」
弁天「さあ、こうなったからにゃあ覚悟は出来ている。どのみち明日も知れぬこの身」
南郷「さて、こっからは俺の働きだ。何かさっきから俺が働いてばかりだがな」
弁天「兄貴、そりゃ気のせいだ」
南郷「気のせいかもんか。何でおめえみたいに男前に生まれなかったのか」
弁天「それは言いっこなしだぜ」
南郷「ちっ、まあいいさ。でだ」
ここで二人はどっかりと座り込む。
南郷「さて、わし等も盗人とはいえ刻印打った頭分だ。これでも千人の手下がいてな」
弁天「俺らもこう見えてもそれなりの手下がいるんだ。これだけ言えばわかるな」
日本「むむ」
忠信「何というふてぶてしい奴か」
赤星「見上げたと言うべきか」
弁天「御前さん達もな」
南郷「へっ、確かに」
ここで五人は互いに見やってニヤリと笑う。
南郷「だから覚悟は出来ているんだ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
弁天「何だったら刺身でもいいぜ」
南郷「そうだな。どうせ一度はばっさりといかれる身、好きにしておくんあせいよ」
日本「(キッと見据えて)本気なのだな」
弁天「ここまできて嘘は言わねえよ」
南郷「俺達にも意地があるんでな」
日本「(前に出て)よかろう」
忠信「いえ、ここは拙者が(前に出ようとするが駄右衛門はそれを制する)」
日本「待て。わしがやる」
忠信「はっ」
日本「盗人ながらまことに見上げた度胸、ならばわしにも情はある」
二人「と言いますと」
日本「(刀を抜いて)せめて苦しまずに済ませてやろう」
二人「おお(これに応えて姿勢を正す)」
弁天「それなら有り難い」
南郷「続きは地獄でやりゃあいいからな」
赤星「地獄でか」
弁天「そうよ。地獄でも盗みをやってやるのよ」
南郷「閻魔も恐かねえぞ。後お侍様」
日本「何じゃ」
南郷「あの世で待ってますぜ。首だけになってもお迎えに参りやすぞ」
弁天「おう、悪党ってのはそう簡単に死なねえからな。きっと来ますぜ」
日本「ふん、その様な戯れ言をこのわしが意に介すると思うか」
忠信「では一思いに」
日本「うむ」
いよいよ切ろうとする。ここで幸兵衛と宗之助が慌てて止めに入る。
幸兵「お待ち下さい」
宗之「店の中でその様な」
慌てて二人の前に出る。
日本「そう思っておったのだがあまりにもふてぶてしい故」
幸兵「しかし鎌倉で刀を抜いて切ったとあれば御身は切腹ですぞ」
日本「切腹が怖くて武士はできぬ」
幸兵「しかし御自身の他のこともございましょう。ここは抑えて下され」
日本「(考え込みながら)ううむ」
宗之「どうかここは。お願いします」
これを見て二人はあえて悪態をつく。
弁天「へん、所詮お侍なんざこんなもんさ」
南郷「切るなら切るで早くすりゃあいい
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