あの日の面影
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「蘭姉ちゃん。」
月明かりだけが、真っ暗な探偵事務所を照らしていた。窓辺に佇む蘭は、きっとまた泣いていた。自分の不甲斐なさに高校生三年生となった江戸川コナンは唇をかんだ。
「あ……、なんでもないの。ちょっと眠れなくて。」
そう言って涙を拭く蘭の姿をコナンは何度見ただろうか。みんなが寝静まった頃、事務所に下りてきては、電気もつけず暗い部屋で一人、夜空を眺めていた。
「新一兄ちゃんの事?」
驚いたように、涙をため込んだ目を見開く蘭は、すぐに悲しげな笑みを浮かべた。十も年の離れたコナンに察されるほど、自分はそんなにも新一のことでいっぱいになっているんだと改めて思う。大人げないと分かっていても、新一を思うと夜も眠れない。
「ホント、どこ行っちゃったんだろうね。あの推理おたく。」
再び窓の外を見上げてポツリと蘭は言った。手に持った携帯を胸の前で握りしめながら、ここ一年ほどは電話もメールもない新一のことを思っていた。
「あ、あのさ。」
コナンの言葉に蘭は振り向いた。窓際に立つ蘭には、事務所の扉の所に立ち尽くすコナンの表情はよく見えなかった。
一瞬にして、時は十一年前へとさかのぼる。自分がまだ高校生だった時の色も、感情も、すべてが押し寄せる波のように迫ってきて、蘭は持っていた携帯を床に落としてしまった。
床に落ちた携帯に気を取られる蘭にコナンは歩み寄った。小五郎のデスクを挟んで対峙する二人を月だけが優しく、そして悲しげに見守っていた。蘭は驚いたように目を丸くするが、すぐにコナンの言いたいことを理解したように微笑んだ。
「ごめんなさい。私は新一を待ってるの。」
何度も聞いたその蘭の言葉を聞くたびにコナンの心は痛んだ。あの頃の自分の年齢を超えた今、自分が蘭に出来ることはなんなのだろうかとずっと考えていた。このまま、戻ってこない新一を待ち続ける蘭を見てはいられない。そんな事のために、蘭のこれからの人生を棒に振ってほしくはなかった。
「いつまで……、待ってるの? 新一兄ちゃんは帰ってこない。もう、帰ってこないかもしれない。」
コナンは不思議だった。自分自身に嫉妬して、自分を信じてくれている蘭にひどい言葉を投げかける。こんな未来、ほんの一年前まで想像すらしていなかったのに。
「どういうことだよ。もう、解毒薬を作っても意味がないって!?」
高校生になったコナンは、江戸川コナンとして歩や元太、光彦や灰原と一緒に帝丹高校に進学した。相も変わらず五人で探偵団をしていたし、入学式の当日には、他の新入生や在学生に取り囲まれるほど探偵団は知名度も人気もあった。主にコナンの活躍で探偵団は何度も警察に表彰され、新聞の紙面を飾ることもしばしばだった。
しかし、そんな灰原はそんな探偵団を一人、輪の外から眺めていた。
「
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