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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十三話 イゼルローン
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方同盟は疲弊しきっている。外交交渉次第では和平が可能だと思う。和平は無理でも自然と休戦状態になるかもしれない……」

「しかし、恒久的なものになりますか」
「恒久平和なんて人類の歴史に無かった。そんなものは望まない」
「?」

「しかし、何十年かの平和な時間は持てた。私の家に十四歳の男の子がいる。その子が戦場に出るところを見たくない」
「……」
本音か? それとも……

「もう一つの理由はこの国が滅ぶところを見たくないからだ」
「滅びますか?」
不思議な事に、俺は“滅ぶ”という言葉に何の驚きも感じなかった。もしかすると俺自身何処かでそれを感じていたのかもしれない。

「滅びるよ、あの男の前にね。貴官も知っているだろう、ヴァレンシュタイン大将だ」
「……」
「先日の第三次ティアマト会戦の詳細が判った。あの男の恐ろしさに震えが走ったよ」

ヤン・ウェンリーはそう言うと第三次ティアマト会戦で何があったか話し始めた。新規二個艦隊を編制したのは誰か? 指揮官を選んだのは誰か? ミュッケンベルガーが重態になったとき指揮をとったのは誰か? 彼を艦隊に配置したのは誰か?

「判るだろう大佐、私の感じた恐ろしさが。まるで真綿で首を絞められるような息苦しさだ」
「……」
判る。俺自身言葉が出ない。

「ヴァレンシュタイン大将は、あの時指揮権に介入したことで一階級降格の処分を受けた。しかし一ヵ月後には二階級昇進し大将になり、宇宙艦隊副司令長官になっている」
「……」

「帝国の上層部もわかっているのさ。彼が帝国を動かす力量を持った男だとね」
「……」
「不思議な男だ。貴官も会ったことが有るだろう」

「知っているのですか?」
「あの時、旗艦アイアースに私もいた」
「……」

俺を必死で説得した男。真っ青な顔をしてふらつきながらもリューネブルクを守ろうとした。一瞬だがリューネブルクが羨ましかった……。

「リューネブルクもあの女性士官も彼に付いて行った。人を惹きつける力が彼には有る。その彼の元に力の有る男たちが集まりつつある。私はこの国が、民主主義が滅ぶのを見たくない……」

そう言うとヤン・ウェンリーはじっと眼をつぶった。彼の言うとおりヴァレリーはあの男に付いて行った、放っておけないと言って。リューネブルクはあの男に希望を見つけた。俺自身一瞬心が動かなかったと言えば嘘になる……。さて俺はどうする? 目の前の男に付いて行くか? それとも……。



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