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豹頭王異伝
暁闇
カルラアの翼
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組み込んであります。
 光のみの解答も、闇のみの道も、共に誤りだと知りなさい。
 地上の闇ではなく、王の内に在る見果てぬ闇をこそ恐れなさい。
 正しい選択に縁って進んで来ている限り、貴方は常に《風》の消息に出会うでしょう。
 貴方を慕う数多の民に護られ、鍵を開ける刻を待ちなさい。
 暁の光は常に、王と共に在るでしょう』

 重苦しくうちひしがれる歌声が、封印していた記憶を甦らせる。
 ミアイル公子の暗殺を命じ、マリウスを犯人に仕立て上げた悔恨。
 唯一人の弟の帰還を渇望しながらも、自ら会う勇気を持てずにいた真の理由。
 自分より愛する者を選んだ弟、アル・ディーンへの嫉妬。
 憎まれて当然の命令を下した罪悪感、再び捨てられる恐怖。
 吟遊詩人マリウスの歌声が、優しく語り掛ける。

 君は、1人じゃない。
 僕が、傍に居る。
 僕は決して、君を見捨てはしない。
 力強い歌声が、心の奥底に響き渡る。

 誰一人、見る者の無い《光の船》。
 ナリスが無限の興味を注ぐ聖王家の秘蹟、古代機械の中で。
 麗人の閉じた瞳から、白く光る涙が湧き出す。
 滂沱と溢れ落ちる涙は尽きる事を知らぬかの様に、何刻までも流れ続けた。

 エルファ、サラミス、マルガ、ダーナム、カレニア、マリア。
 人々の心に、歌が響く。
 カラヴィア、サラエム、シュク、アルム、ジェニュア。
 竜の門に蹂躙される聖都クリスタル、魔宮へ変貌を遂げた聖王宮の最奥にも歌が届く。
 魔道師達の紡いだ遠隔心話の連絡網《ネットワーク》に乗り、パロ全域に歌は響き渡る。
 カルラアの与えた水色の翼が輝き、パロを光に導く聖王の誕生した瞬間かもしれなかった。

(あの詩人に、こんな奇蹟(ミラクル)を引き起こす魔力が潜んでいたとは思わなんだ。
 九百年も生きておるが、この様な素晴らしい歌は聴いた事が無い。
 あの頼り無い吟遊詩人は、『光と闇を其の身体で結ぶ』存在と納得した。
 一千年を生きた《北の賢者》、ロカンドラスも惜しい事をしたものだ。
 人間の領域を超越した大導師アグリッパと異なり、人の子の感情を理解する者だからな。
 歌の力を体感すれば何かが変わり、もう少しだけ人の世を見守る気になったかも知れぬ)

(あぁ、全く同感だな。
 それに何と言うか、ホータンで聴いた時よりも《響いた》。
 おぬしや魔道師達が此の場に居てくれて良かった、パロ中に歌が届き必ず何かが変わる。
 マリウスの歌は何時も俺の心に響き、希望と勇気を取り戻してくれる特効薬なのだからな)
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