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目薬
6部分:第六章
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第六章

「それはね。しかしね」
「しかし?」
「部長、何かあるんですか?」
「あるよ。いや、この目薬はいいよ」
 彼が目薬に話を戻してきたのだった。
「させばそれでありのままの自分を引き出すことができるからね」
「ありのままの自分を」
「それをなんですか」
「うん、自分を隠すことは時としては必要だよ」
 大人の言葉だった。時と場合によってそうしたことも必要である、これは世間を生きるということにおいて絶対にしなければならないことではある。
「それはね。ただ」
「ただ、ですか」
「それでもですか」
「そうよ。それでもだよ」
 部長はここでも大人として二人と佐野に対して話す。
「その時としてはありのままの自分を出すことも必要なんだよ」
「時と場合によってはですか」
「ありのままの自分を」
「そういうものだよ。難しいけれどね」
 彼は話す。
「それはね。それを考えるとね」
「この目薬はいい」
「非常にいいものなんですね」
「じゃあ今から」
 部長はあらためて三人に話す。
「この目薬を桐野君にも使ってもらうか」
「マネージャーにもですね」
「今から」
「そうしてもらおう。じゃあ行こうか」
 こうしてその桐野のところに向かう。彼は自分の部屋において事務仕事を黙々とこなしていた。四人はそこにやって来たのである。
「やあ桐野君」
「いいですか?」
「むっ?」
 冷静、いや見方によっては冷徹な表情だった。黒く長く伸ばした髪に鋭い目をしている。端整であるがやはりそれ以上に冷たいものがそこにある。
「部長、それに佐野達も」
「実は君にプレゼントがあるんだよ」
 部長は穏やかな笑みで彼に言ってみせた。
「いいかな」
「プレゼントですか」
「これだよ」
 彼の机にそっとあの目薬を差し出してみせたのだった。
「これをね」
「ああ、あの目薬ですか」
 その目薬を見てだった。桐野はその目をさらに鋭くさせた。
「今コマーシャルにもなっている」
「どうかな、さしてみないか?」
 部長はまた彼に言ってみせた。
「この目薬を」
「ええ、いいですよ」
 桐野は特に拒むことなく部長の言葉に応えた。
「それなら」
「よし、じゃあ是非ね」
「わかりました」
 こうして彼はその目薬を手に取ってそのうえで自分の目にさしてみせた。そうしてそのうえでだった。彼もまたその地を出したのであった。
「まあウチナンチューにはウチナンチューの考えがあってだ」
「ウチナンチュー?」
「何ですか、それ」
 麻里子と響はその言葉に戸惑いを見せた。
「はじめて聞く言葉ですけれど」
「一体」
「ああ、沖縄の言葉よ」
 佐野がそのいぶかしむ二人に対して告げた。
「沖縄の人って意味なの」
「ああ、そうな
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