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Element Magic Trinity
ちゃんと見てると、彼女は言った
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列車の中の空気は、最悪の一言に尽きる。
それは別に埃っぽいだとかそういう意味ではなく、ただ単純に列車に乗る前のやり取りが原因で2人とも口を閉ざしているというのが理由だった。

「……」
「……」

向かい合って座る。隣という選択肢もない訳じゃないが、そこまで親しくなった覚えはない。序でに言えば、今のこの空気で隣を選ぶのは結構厳しい。
頬杖を付いて窓の外を眺めるアルカと、足を組んで俯き気味に顔を逸らすミラ。2人の間に会話はなく、ただ列車の揺れる音だけが響く。傍から見ればなかなかにお似合いなカップルのようで、実際にはそんな関係性とは最も縁遠い場所にいる事を知っているのは、この場では当の本人達だけだ。

「…なあ」

そんな空気を打開するように、口を開いたのはアルカだった。声をかけられれば会話をする気はあるようで、ミラもどこか面倒そうではあるものの顔を上げる。

「ミラはさ、オレのどこが嫌いなんだ?」

頬杖を付いたまま、顔はこちらに向けて。僅かに眉を寄せ不思議そうに問う彼に、ミラは密かに溜息を吐く。先ほどといい今といい、この男は随分と嫌われている事を気にしているらしい。そんなに万人に好かれたいのか、と出かかった言葉はどうにか飲み込んだ。相手がアルカとはいえ、無闇に傷つけたい訳ではない。
少し間を置く。はぐらかすか正直に答えるかを僅かに悩み、隠す必要もないと素直に答える事にした。

「顔」
「え」

予想外の答えだったのか、疑問めいた音はない。顔を見れば大きく目を見開いていて、こんな顔もするのかと少し意外に思った。ミラの記憶の中の彼は、いつ見ても笑っている印象ばかりが強い。

「あー…え、顔?マジで?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「だよなあ……顔かあ。おっかしいなあ、自分で言うのもアレだが女性人気はそこそこの顔のはずなんだけど」
「自分で言うか普通!?」
「将来有望って雑誌に書かれたんだぜ?これでも」

確かにアルカの顔は、分類するなら整った方になるのだろう。華があるというか、人前に出ての仕事に向いていそうな顔だ。現に週刊ソーサラーからモデル撮影の話が時々入ってくる、らしい。オレの本業魔導士なんだけどなあ、と言いつつも、優しいが故に断り切れずにいる姿を思い出す。

「それにしても顔って…整形でもしなきゃダメか……?いや、変身魔法でどうにか…けど魔力の消費がなあ」
「言っとくけど、私は別にお前の顔そのものが嫌いって訳じゃねえよ」
「え!?」

今度は驚き混じりの疑問音。ぱっと上がった顔にうっすらと歓喜の色を見た気がして、ミラは少したじろいだ。先ほどからミラの一言で表情をころころと変えていくのが、どこかくすぐったい。
小さく芽生えようとした何かに気づかないまま、どういう訳だか彼を直視出来なくな
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