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ミラエ=アル=リフ
第六章

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「奥さんの一人を」
「あんた離婚したいかい?」
 警官はバルダートの考えに即座にこう返した。
「自分の奥さんと」
「いや、そう言われますと」
 バルダートも反応が早い、まるで美人が横を通った様に。
「嫌ですね」
「離婚するって三回言えばな」
「後はそのかみさんを一生養えるだけの金を出さないといけないですからね」
「結婚するのに金がかかってな」
 イスラムの伝統だ、婚礼の式にはかなりの予算が必要だ。
「それで離婚とかな」
「洒落にならないですね」
「しかも金持ってるならだ」
「持ってるだけ金を出さないといけないですね」
「ムハンマドは女性は粗末にしなかったんだ」
 とかくその時代では相当なフェミニストだったのだ。
「だからな」
「離婚すればですね」
「その人も大変な金を支払わないといけないからな」
「四人のかみさんの誰一人としてですか」
「離婚出来ない、しかし奥さんは四人までだ」
「だからですか」
「その人は愛人でな」 
 五人目の妻で、というのだ。
「内密にってことで」
「この辺りに囲って、ですか」
「ボディーガードもつけてるがな」
 用心の為だ、エジプトも結構治安に問題があったりするのだ。
「顔を隠して」
「誰にも知られない様にしてるんですね」
「そうしてな」
「わかりました、そういうことだったんですね」
 ジャーファルは警官の話をここまで聞いて頷いた。
「顔を隠す為にですか」
「今時ヴェールだったんですね」
「かえって目立つ気もするがな」
「少なくとも顔はわからないですね」
「何処の誰かはわからないからな」
 ヴェールをしていればというのだ。
「それでなんだよ」
「よくわかりました」
「あと、その囲っているのが誰かはな」
 警官はヴェールの美女の『夫』のことも話した。
「守秘義務だ」
「言えないですか」
「軍隊の方も同じだろうな」
「何処の誰かはですか」
「ああ、さっき実際に上からもう調べるなと言われた」
 警官の上司からだ。
「テロリストじゃないのはわかったからな」
「後はプライバシーですか」
「何処の誰かからな」
 圧力がかかったというのだ。
「だからいいな」
「わかりました、じゃあ」
「ああ、この話はこれで終わりだ」
「そういうことで」
「もう気にすることはないからな」 
 黒いヴェールの美女もというのだ、こう二人に言ってだ。
 警官は二人の前を後にして市井の中に消えた、そして。 
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