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悪ふざけ
4部分:第四章
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第四章

 確かにその人だった。だがそこにいたのはあんな如何にも真面目そうな人ではなく髪を派手に立たせ、ブルゾンにレザーパンツを着こなしたかなりパンクな格好の御仁であった。まるでコンサート会場に行く様な格好であった。少なくともお見合いで見る格好ではなかった。
「裕行さん、こっちよ」
「はい」
 どうやら彼の名は裕行というらしい。名前からはとても想像出来ない格好であった。
「あの」
 おばさんは彼等に声をかけようとする。だがどうにも言葉が出ない。
 かわりにあちらから声がかけられてきた。その年配の女性が言う。
「はじめまして」
「ええ、はじめまして」
 おばさんはその裕行というパンクの青年に戸呆然として席を立つのも忘れてしまっていた。
「木原と申します」
「はい」
 相手の名前はおばさんは知っていた。だが蒔絵は元々この話は何が何でも破談にするつもりであったので覚えてはいない。そんなことよりどうやって話が潰れるかの方が問題だったのだ。
「こちらは息子の裕行です」
「はじめまして」
 そのパンクないで立ちからは想像もできない程礼儀正しい挨拶であった。これは銀行員だけであった。
「はあ」
「何でも最近お見合いではこうした格好で出るのが流行っているらしくて」
「そうみたいですね」
 おばさんはあちらの言葉に頷いた。少し考えればそんな筈がないのだが見れば蒔絵もあちらの裕行も同じような格好をしている。これでは信じてみる気にもなれた。
「それで。こちらに」
「はい」
 おばさんもあちらの御母堂も同じ様な顔になっていた。戸惑いを隠せない。
「まさかとは思いましたけど」
「お互いそうでもないようですね」
「ええ。ではまずはお食事でも」
 こうしてかなり変わった格好のお見合いがはじまった。蒔絵は相手になる裕行を見て内心激しく舌打ちしていた。
(参ったわね)
 これが最初の心の中の言葉であった。
(この格好なら絶対に大丈夫だと思ったのに)
 よりによってお見合いにそれはないだろう、というとんでもない格好をわざわざ選んだのだ。それを見合いをすぐにブチ壊す為にだ。それは確実に成功する筈だった。
 ところがそうはいかなかった。相手が同じような格好をしてな何の意味もない。そもそもこんな格好が流行の筈がない。あえて嘘までついたというのにそれさえも失敗していた。
 非常識はそれが常識になった時に非常識ではなくなる。この場においては二人の格好がまさにそれであった。彼女はまた舌打ちした。しかし舌打ちだけではどうにもならないのだ。
(どうしようかしら)
 とにかくこれからどうかしないと。下手をしたら結婚してしまう。そんなつもりは毛頭ない。彼女はどうしようか考えていた。あれこれ考えているうちに食事が運ばれてくる。
 スパゲティ
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